第37話 凄いんだな

 ガルヴィナ。当初の目的地だったウィルポートと比べると街自体は小さいのだが、王国の片田舎に住んでいたファジルでもその名を知っているぐらいに、王国内でも有数な街の一つだった。


 街は通りを行き交う人で溢れていて、ファジルが興味深そうにそれを見ているのに気がついたのだろう。エクセラが口を開いた。


「そういえばファジルは故郷のグイザールから出たことがあまりないから、こんなに大きな街は初めてだものね」


 その言葉にファジルは無言で頷いた。


「エクセラはファジルとは違うんですかー?」


 カリンの問いかけにエクセラは軽く胸を張った。その動作で人並み以上の胸が大きく揺れる。


「私は王都で魔法を学んでいたからね」


「ほえー? 王都で魔法ですかー。何だか分からないけど、凄いのですー」


 カリンがよく分からないままながらも、素直に賞賛している。


「ふふん」


 その賞賛が嬉しいのかエクセラが盛大に鼻から息を吐き出したようだった。そんな様子のエクセラを見ながら、何だかよく分かってもいないような賞賛にも嬉しそうにする。単純と言ってしまえば確かにそうなのだが、それがエクセラの素直でよいところでもあるのだとファジルは思っている。


 もっとも、暴力的なところだけは何とかしてもらいたいところなのだったが。


「王都で魔法を学んだってことは王立の魔法学院か?」


 ガイも興味深そうに訊いている。


「そうよ。そこの主席だったんだからね」


 更にエクセラの鼻息が強まったような気がした。


「ほう。そいつは凄いな。王立学院の主席といえば、当代の勇者に同行できるぐらいの実力だぞ」


 ガイの言葉にエクセラは顔の前で片手を左右に往復させた。


「そんな真似はしないわよ。大体、今の勇者には私の先輩が同行しているしね」


「あのマリナとかいった魔導士か?」


「そうよ。嫌な奴だけど、魔導士としての実力は私といい勝負よ」


 ガイの言葉にエクセラが頷く。だが、自分より上だと認めるつもりはないようだった。でも、当代に勇者に同行している魔導士なのだ。彼女が現時点では王国随一の魔道士と言ってよいのかもしれなかった。


 ファジルはそう思いながらエクセラの顔を見る。王立の魔法学院を主席で卒業。そして、勇者に同行している魔導士に比肩する実力。


 深く考えたことはなかったが、どうやらエクセラは凄い人物なようだった。単に暴力的な幼馴染みではないようだ。ここは認識を大いに改める必要があるのかもしれなかった。


「どうしたの、ファジル? 変な顔をして」


 エクセラが不思議そうな顔を自分に向けている。変な顔は失礼だろうとファジルは頭の片隅で思う。


「い、いや、エクセラって凄いんだなって思って」


 ファジルの言葉にエクセラの顔が僅かに上気したようだった。ここでエクセラが何で顔を赤らめるのかファジルには分からなかった。


「そ、そうよ。私は凄いんだから」


 エクセラもよく分からないことを言っている。


「だが、実際に凄いと思うぜ。勇者一行にいてもおかしくない魔導士なんた。そんな魔導士が何で、なんちゃって勇者と一緒にいるんだ?」


「何だよ、何ちゃってって。俺は勇者になりたいだけだと言ってるだろう」


 ファジルの不平にガイは取り合うつもりはないようで、更に言葉を続けた。


「エクセラぐらいの実力なら、王国に勤めることだってできただろうに」


「ふふん」


 鼻息を再び荒げて更にエクセラの胸が反ったようだった。


「本当はそのつもりだったんだけどね。そこの幼馴染みが心配だったから」


「ほう……」


 ガイは更に興味深そうな目でエクセラを見る。


「ファジルのことなら、もうぼくがいるから大丈夫なんですよー。エクセラはお化けおっぱいの立派なお役人になるといいんですよー」


 余計なことを言ったカリンがエクセラに頭を再び叩かれている。


 そんな会話をしていると、そこそこ立派な見栄えがする宿屋が視界に入った。

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