クレマンスの完全復活
クレマンスへの質疑応答は、しばらくしてから……という事になった。
幾ら眠りから覚めたとはいえ、数年間、ずーっと眠っていたクレマンスの体だ。少しずつ、動かしながら、リハビリから始めなければならない。足も、細くなって、すっかり、やせ細ってしまったクレマンスの姿に、マティスとマティルドゥは最初、無理はしなくていい、どうかそんなに頑張らないでくれ、とクレマンスに言ったが……、
「マティス、マティルドゥ様、大丈夫です。わたくしは嬉しいのです」
「え……?」
マティスは、困惑した。幸せの絶頂だったあの瞬間に、一瞬にして地獄に突き落とされたのだ。『嬉しい』などと、言えるクレマンスを、マティスには無理をしているようにしか思えなかった。しかし、確かに、その顔に笑みが……心からの笑みがある。そう、マティルドゥが言っていた。
「クレマンス、お前はとても真面目で責任感の強い女だ。それほど自分をいたぶるでない」
「いたぶってなどおりません。わたくしは、この国の為に、自分に出来る事を見つけることが出来たことが、とても、本当に嬉しくてたまらないのです。この体を、
その笑顔に、嘘がない事だけは、マティスにも伝わて来た。本当に、この国を想い、愛し、王族であることを決して鼻にかけぬ、凛としたその瞳は、確かに、この国の行く末を見守るかのようだった。
―二日後―
「クレマンス、まずは『魔法使い博士』について、貴女の頭に描いた理論を説明するのだ」
マティスにも、マティルドゥにも、リュカにも、まだ、休んでいた方が良い、時間は幾らでもあるのだから……、と何度も説得されたが、クレマンスは、
「大丈夫です。わたくしは、治癒の魔法、『ゲリゾン』を身につけることが出来たのです」
「「「!!!」」」
体はまだ思うように……とはいかないにもかかわらず、その発言をしたクレマンスに、三人は多いに驚かされた。
リハビリだけで、相当な魔力を使い、新しい魔法を身につけることなど、ほぼ、不可能に近い。しかし、クレマンスは、それをやってのけたのだ。
「『ゲリゾン』……、昔の書物で、チラッと目にしたことのある魔法だ。私にも、使えなかったが……。つ……使ってみてはくれぬか?私も、この目で見たいものだ」
リュカが、唾を喉にゴクリと押し込んだ後、いささか興奮気味に、クレマンスに半ば、お願いするような態度でその魔法を見たいと頼んだ。
「はい。今、わたくしの中には、七つの魔法の中で、『ステラ』の魔法を強く宿しております」
「『ステラ』……、確かに、何かを照らす魔法は『ステラ』によって導かれるが、しかし、『ステラ』を使い、どう、その『ゲリゾン』とやらと繋ぐのだ?」
国王アントワーヌの時代から、「ペルフェット・ドクトラ」として、「ロワイヨーム・ソルシエール」を支えて来た、リュカでさえ、七つの魔法で使えるのは、一種類につき、一個だけだ。そこに、新たな魔法を作り出したと言うクレマンスの言葉に、最初、リュカは驚きと、それに勝る、高揚感に溢れていた。
これから、「ロワイヨーム・ソルシエール」を背負ってたつ、子供たちが、クレマンスの考えた「魔法使い博士」と言う新しい教育者に、洗練され、鍛錬され、あの地獄のような戦争が、二度と起こらないならば、リュカにとって、これほどうれしい事はない。
「はい。リュカ様、『ステラ』の魔法、『与える』と言う属性の魔法でございます。これにより、治癒の魔法『ゲリゾン』を使い、空に散りばら撒かれている『ステラ』からその力を与えてもらうのです」
「そうか……そうすれば、星々の力が全て、クレマンス、貴女に届けられる……と言うことなのだな?」
「はい。その通りでございます。リュカ様」
「ふむ。考えたな……」
「では、実際に、わたくし自身に、『ステラ・ゲリゾン』の魔法をかけます」
そう言うと、そっと胸の前で両手を、何か丸いモノでも抱えるような形にして、クレマンスは瞳を閉じた。
「『ステラ・ゲリゾン』」
すると、両手の中に、輝きが生まれ、煌々とクレマンスの体を包み始めた。すると、数秒も経たぬうちに、痩せ細った体がみるみるハリ、艶を従え、数年も眠っていたのが、本当に嘘のようにクレマンスはあっという間に回復した。
「す……素晴らしい……。クレマンス、『魔法使い博士』、貴女になら、出来るやもしれぬ。どうか、私にも出来る事があれば、手伝わせてくれ」
「ありがとうございます。リュカ様」
魔法を見て、満足したリュカは、マティルドゥに、
「二人きりにして差し上げましょう……」
と、耳元で囁き、静かに部屋を跡にした。
「クレマンス……」
「マティス……。今日まで、わたくしをお見捨てにならず、愛して下さったこと、大変、嬉しく思います。ですから、これからは、わたくしが、この国に、恩返しをする番です。『魔法使い博士』……、本当にわたくしに出来るかどうかわかりませんが、精一杯、この国の為に頑張らせてください」
「そんな事は、今は良いのだ……。俺は、クレマンスが目を覚まし、そして、こうして元気になってくれたことが、今、何より嬉しく、幸せだ……。どうか、無理だけはしないで欲しい」
「大丈夫です。わたくしは、この国初の『魔法使い博士』になる魔法使いです!!」
飛び切りの笑顔で、クレマンスは、この国に、恩返しをする、とマティスの前で宣言した。
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