プロポーズ
クレマンス、卒業一か月前。
「クレマンス、お前は『ペルフェット・ドクトラ』になる気はないのか?」
リュカが、魔法室に、クレマンスを呼び出し、尋ねた。
「リュカ様、ありがたきお言葉ですが、わたくしは、あくまで、上に立つより、下で国王様や、女王様をお守りしたいのです。そのためには、支援隊に入るのが一番かと……」
「だが、『ペルフェット・ドクトラ』になれば、お前ならもっと王国の役に立てると思うのだが……」
「お話が早すぎます。リュカ様。例え、わたくしにそのような才があったとしても、私は、まだ、『エコールド・マジー』すら卒業しておりません。ゆっくり、考えさせていただく事は出来ないでしょうか?」
「……うむ。わかった。よーく、考えてくれ」
「はい」
しかし、この時、クレマンスは、もはや、七つの魔法を使いこなしていた。
その、七つの魔法を大きく紹介しよう。
一、
この七つだ。その中にも、過去の「ペルフェット・ドクトラ」が生み出したこの七つを基礎とした魔法が存在する。
確かに、クレマンスは、魔法を操る事に、勿論、楽しいだけではない、この王国を、わが手で守る事が出来るのならば、「ティーム・ディ・スポルト」に入るより、もしかして、リュカの言う通り、「ペルフェット・ドクトラ」になった方が、王族を間近で見守り、そして、いざというときは先頭に立って闘えるかもしれない……、と、思っていた。
迷いに迷ったクレマンスだったが、「ペルフェット・ドクトラ」になるかならないかは、また後で決めればよいと思い、とりあえず、リュカが、推薦状を書いてくれ、学費が半分になるという事で、親も、進学を反対はしなかった。
それどころか、我が家から、もしかしたら、「ペルフェット・ドクトラ」が誕生するかもしれないと、悦びでいっぱいの気持ちだった。
―入学当日―
「ウニヴェルシタ」には、生徒は、たった6人しかいない。そのため、教室は、一つだ。基礎が出来ていれば、魔法を三つ作り、後はマティルドゥに「ディストルジオーネ・カッティ―ヴォ」をかけてもらえば、晴れて「ペルフェット・ドクトラ」だ。
そして、その日、とうとう運命の出会いが訪れる。マティスとクレマンスとの出会いだ。クレマンスは、マティスの想像していたがり勉で、地味なイメージとは程遠い、華やかで、協調性があり、明るく、そして、とても美しい女性だった。
マティスは、あっという間に恋に墜ちた。
「本日から、『ウニヴェルシタ』に入学いたしました、クレマンスです。よろしくお願いします」
拍手が贈られる。
マティスは、その日のうちに、早速クレマンスに話しかけた。
「クレマンスと言ったな」
「あ、マティス様! はい! クレマンスと申します!」
「そう気を張ることは無い。ここでは同じ生徒ではないか」
「そうですが、国王様に、気を張るな、と言う方が無理な話でございます」
「ははは。正直な女だな。良ければ、休み時間など一緒に特訓をしないか?」
「特訓……でございますか?」
「敬語は要らん。呼び方もマティスで構わない。どうだ? 特訓、してみないか?」
「……特訓だけなら引き受ける自信があるのですが……」
クレマンスは、恥じらうと、頬を赤くし、その表情が、また、マティスの鼓動を高鳴らせた。
その時、マティスの口から、とんでもない言葉が飛び出した。
「クレマンス、俺と結婚してくれないか」
「!?」
クレマンスは、只々驚くほかない。出会って、その日、結婚を申し込まれた。それも相手は、一般庶民ではなく、この王国の国王のマティス。
「あ……そのようなご冗談は……わたくしなど、マティス様に相応しいはずが……」
「そうだろうか? 『エコールド・マジー』での抜きんでた努力は、リュカから聞いて知っている。七つの魔法を使いこなしたのもクレマンスの他、『ティーム・ディ・スポルト』に入隊した魔法使いを抜かすと、この『ウニヴェルシタ』に
進学できたのは、君と後二人だけだと聴いたぞ。それは、国王の妻として、何ら恥じる事のない魔法使いだ」
「で……ですが、いきなり結婚と言うのは……」
「ならば、近いうちに、母に会ってもらおう。母は、心を覗く事の出来る魔法を使える。その魔法で、母が問題ないとしたら、ならどうだ?俺の嫁になるのは不満か?」
今更ながら、マティスの容姿は、とても素敵だった。高身長で、薄緑の瞳。父譲りの少し紫がかった髪、端正な顔立ち。容姿ならば、言うことは無い。
そして、何より、伝説の英雄である、父、アントワーヌと勝るとも劣らずの立派な立ち居振る舞いから、国王としてだけではなく、普通の『格好いい魔法使いの男性』として、見られてきた。が、何せ、国王は国王だ。そんなに簡単に話しかけられるものではない。
そんな、マティスに、いきなりプロポーズされたクレマンスは――……!?
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