Day27 渡し守

「あれ?」

 まだ若い娘だった。きょろきょろと視線を動かしている。

「舟……? なんで、わたしいったい……」

 娘が言葉を途切れさせた。舟を漕ぐ人物に気がついたようだ。

「え、おばあちゃん? どうして……」

 渡し守の老婆はなにも語らない。ただおだやかな笑みを浮かべ、静かに舟を漕いでいる。音もなく、舟は川を進んでいく。

 ふたたびあたりを見まわして、娘はフッと脱力した。その顔にはあきらめたようなほほ笑みが浮かんでいる。


 娘を対岸に送り届けた渡し守はその背中を見送って、また次の客を迎えに舟を漕ぎだした。

 その小さな舟の渡し守には顔がない。舟に乗る者の記憶によって、その姿を変えるのである。

 渡し守の役目は二つ。舟に乗る者に、これから向かう先を自覚させること。そして、無事に対岸まで送り届けること。ただそれだけである。


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