よみがえり
第22話 9月19日
祭が終わり、再び日常が戻ってきた。
体育祭の晩、黙りこんでしまった優里先輩をマンションに送ったけど、僕は気の利いた言葉をひとつも言えなかった。
衝撃的な告白をもらった岩崎さんとも、あれ以来顔を合わせていない。
どう接すればよいかも判らず、むしろ会わずに済んでいることにホッとしている自分がいた。
気まずさから先輩の家にも生徒会にも顔を出せず、宙ぶらりんの日々が続いていた。
緑古戦以来、僕のクラス内での立場は〝無害で陰キャのカメラオタク〟から〝敵に回すとやっかいなカメラオタク(「あんな可愛い子に慕われやがって」という怨嗟の声付き)〟にランクアップを果たし、同士だと信じて疑わなかった陰キャカーストからもうっすらハブられ気味だ。
一方、延田は緑古戦の後一週間ほど学校を休んだ。
そして戻ってきた時には、髪色を黒に戻し、リボンタイは襟元きっちり、スカートは膝上数センチという、まさに絵に描いたような模範生に変貌していた。
延田はもともと整った顔立ちをしているし、成績だって僕より上だ。ギャルメイクを止めれば絵に描いたような美少女優等生になる。
彼女の再登校と同時にクラス中が大騒ぎになり、その騒ぎはあっという間に全校に広がった。改めてこのコミュ力お化けの影響力を思い知る。
慕っていた叔母さんが亡くなったと知らされたのはバイト先で、「ありがとう四持。ギリギリで間に合ったよ」とだけ報告を受けた。
◆◆
「さて、今日呼び出したのはあなたに二つ用件があるからです。とりあえず座って下さい」
僕はおっかなびっくり会長の正面に腰を下ろす。
窓から秋の風が吹き込み、会長の黒髪がふわりと揺れた。だが、だが、僕を見つめるまっすぐな視線は微動だにしない。
「まず一つ、四持がずっと要望していた写真部の復活についてです。これまでのあなたの活動をかんがみて、新たに創部を認めてもよいのではないかという意見が生徒会と教師の一部にあります」
「本当ですか!」
春からずっとそれを目標に雑用に甘んじてきたわけで、僕はうれしさのあまり思わず声を上げた。だが、会長の視線は相変わらず僕をしっかりと見据えている。
「慌てないで下さい。しかし、今のところあなたの活動や功績はむしろ〝よろずやっかいごと係〟方面にかたよっていて、写真部の活動とは言えません。わが校において創部のタイミングは四月と九月ですが、今回は見送らざるを得ません」
「確かに……そうですね」
ズバリと言われてしまい、膨れ上がった希望は一瞬でしおれてしまう。だが、話には続きがあった。
「そこで四持に一つ提案です。外部のフォトコンテストに出品するつもりはありませんか?」
「フォトコン、ですか」
「ええ、結果は問いません。だが、君の写真部的実績がもう少し欲しいのです。もし作品応募にあたって必要であれば、一時的に生徒会の名義を貸しても構いません」
会長の提案はもっともだった。
同時に、写真部の復活を後押ししようという気持ちがうかがえて嬉しくなった。
「そうですね。ちょっと考えてみます。ただ、僕はこれまでフォトコンには一度も応募したことがないので……」
「心配は不要です。古沼高校写真部からノウハウ提供の申し出がありました。どうしますか?」
「それは助かりますが、一体どうしてです? よその学校の部活……というか、まだ部活にすらなってないのに」
「三十年前の緑古戦、その見直しに四持が関わっていたことを伝えました。ちょっとした恩返しのつもりかもしれません」
「……ああ、なるほど」
別に恩義を感じてもらうほどのことはやってないが、便宜をはかってくれるというのをわざわざ断ることもない。
「では、数日中に打合せの日程を組みます。異論はないですね?」
「はい」
会長は小さく頷くと、かたわらのノートパソコンにカタカタと指を走らせた。やがてポンと大きくキーを打つと、両手を組み合わせてわずかに身を乗り出す。
「さて、それからもう一つ。これは生徒会からと言うより、吉見先生と私からの個人的なお願いなんですが……」
会長の目つきがさらに鋭さを増す。なんだか怖い。
「比楽坂のことです」
「優里先輩の?」
「ああ、緑古戦からこっち、比楽坂が授業に出席していません。体育祭以降、まったく。あの子はしょっちゅう不貞腐れていますが、それでも学業をおろそかにするタイプではありません。四持、なんとかして下さい」
「僕に何が……」
「あの子は野良猫みたいにプライドが高いですから、本当に心を許した相手の話しか聞かないでしょう。悔しいですが私では無理です」
「でも……僕だってそれほど——」
「過度な
会長は強い口調で僕の言葉をさえぎった。
「あの子が他人を部屋に入れるなんて信じられません。その壁を突破できたのは今のところ、あなた一人だけ。その意味するところを、もう少し真剣に考えた方が良いのではありませんか」
先輩が授業を休んでいる理由。
もしそれが僕の思い上がりでないならば、先輩は岩崎さんの告白を見て……。
そこまで考えて、僕は慌てて頭を振った。うぬぼれた想像をしている自分が恥ずかしくなる。
「いえ、たぶん先輩は、自分のおもちゃに他人がちょっかいを出し始めたことが気にいらないだけじゃないですかね?」
「あのですね……」
僕の言葉に、会長は小さく首を振りながら嘆息を漏らした。
「そう思うのは自由です。でも、私はあの子の友人として、君にあの子の気持ちをきちんと汲んでほしいと思ってる」
それだけ告げると、話はこれで終わり、とでも言いたげにノートパソコンをパタンと閉じた。
◆◆
生徒会室を出て、僕は空を見上げた。
「おもちゃ、か……」
自分で言っておいて、胸がズキリと痛んだ。
本当はわかっている。先輩があの時見せた表情は、そんな軽いものじゃなかった。僕はただ、傷つくのが怖くて、彼女の気持ちから目を逸らしていただけだ。
「……最低だな、僕は」
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