#047 インパクト勝負
「それでその世界では、互いの事を知らないのが当たり前なんです」
「それでどうやって社会というか、家族? 世代交代していくのよ」
「そのへんは未来的な何かで……」
珍しく積極的な議論をかわす第二美術部の面々。議題はもちろん、文化祭で発表するイラスト本についてだ。
「そのへん、つめる必要ってあるのか? そもそも詳しく世界観を語るスペースなんて無いだろ」
「それはそうだけど、煮詰めて共有しておかないと、作品がブレブレになっちゃわない?」
物語の舞台は未来のデストピア。男性ばかりが暮らす
「そんなの皆が皆でストーリーやセリフを描き込むわけじゃないからいいだろ」
「それよりもバトルスーツのデザインを考えない? 攻撃はともかく、演出がメインでしょ??」
物語の基本は起承転結だが、この作品はそれが明確に分かれている。8ページ、つまり『見開き4ページ』をそれぞれ起承転結にわりあて、さらに左右を男性サイドと女性サイドの物語(をメイン)に分ける。
「つかさ、素人がテキトーなこと言い合っても仕方ないだろ? まずは行動しなきゃ」
「それならもう、多久田先輩は行動してるけどね」
「え? あぁ、まぁ、うん。これでいいなら」
この作品のポイントは作業工程だ。最初に主犯の僕が大まかな構成を考え、それを共有サーバーにアップロードする。あとはシナリオや色塗りなど、出来る人ができるタイミングで担当個所を加筆していく。基本的に定義づけられた"
「そういうのよく分からないから、多久田先輩にまかせます」
「ちっとは自分で考えろよな」
「考えないとは言っていないわ。作業はするし、指揮は任せるってこと」
「ゆうても、パソコンはあるのかよ? 本格的なCGができるヤツ」
「ぐっ、それは……」
「あまり難しく考える必要は無いよ。それこそ手描きでもいいから出してくれれば、取り込んで調整するし」
まわりくどい説明になってしまったが、ようするにやっていることは『お絵描きリレー』だ。大まかなストーリーやコマわりは僕が決めるけど、あとは行き当たりばったりで変更可能。とうぜんそれでは出来るもののクオリティーも知れているだろう。しかしその点に関しては秘策がある。
「問題は"展示"だろ。そんなデカいイラスト、本当に描けるのか?」
「ぶっちゃけ本家(第一美術部)よりも大きいのを出すわけだしね」
「むしろ、その大きさが重要なのよ! 大きささえクリアできれば、クオリティーは下げても良いんだから」
そう、僕たちが勝負するところは"大きさ"であり、つまりインパクトだ。文化祭では展示教室を壁で分割し、それぞれの壁一面に制作したイラストを拡大して展示する。しかもプロジェクターの映像ではなく、実際に用紙に手描きしたものを。
ちなみにA4用紙サイズの本も当然作る。そしてデジタル限定の裏バージョンも。
「ぜったい面倒だろうけどな。つか、許可、おりたんだっけ?」
「やること自体はOKだけど、予算とか道具は協議中みたい」
「まぁ、ダメならダメで学校側の問題に出来るから、むしろ助かるけどね」
第二美術部には部費はない。しかし『まったく自由にできるお金(と資材)がないのか?』と問われると、そうでもない。文化祭には文化祭用の共同予算がおりるし、文化祭とは関係なく学校側が貸し出してくれる機材や資材がある。
それらが使えなくなった場合は、プロジェクターや、事前に印刷したものを張り出して対応する。というか、まず間違いなく学校側はそれらの形での作品展示を要求してくるはずだ。実績のある第一美術部ならまだしも、第二に予算を割り振っても無駄になる可能性が高い。だから要求にはダメもとで盛りに盛った予算や資材を提示してやった。
「フフフ。やっぱり皆で大きなことをするのは、ワクワクしますね」
「それはそうだけど…………なんでそんな悪役みたいなポーズで言うの?」
「フフッ。その方がワクワク感が増すからですよ」
「はぁ……」
師匠が言う事もあながち間違いではない。イラスト本自体の最低必要労力は参加人数でわって考えると、実は大したことない。しかしその調整や、何よりモチベーションの維持は難しく。ようするに『面白くないと出来ないし続かない』のだ。そういった意味で、悪ノリと勢いで軌道に乗せてしまうのは重要と言えよう。
「それじゃあジュン! 裸版は任せましたよ」
「裸と言うか、マネキンと言うか…………まぁ、やるにはやるけどさ」
ちなみに舞台は未来なので、服装はピチピチのボディースーツだ。そして下書きの段階では、ほぼ裸と言えるような状態になる。もちろん乳首などは描き込まないが、つまり個人的に乳首を追加したバージョンを用意しても、学校側は分からないわけだ。
「多久田先輩」
「えっと、なにかな?」
「序盤の男性同士の絡みなんですけど、構図はこんな感じでお願いします」
「あぁ、うん。じゃあそれで」
妹さんの提案は、ちょっと特定の世界観を色濃く連想させるもので…………僕が考えている世界観や予定とは合わないものだった。しかしお絵描きチャットとはそういうものであり、ここは流れに身を任せる事にする。
そんなこんなで僕たちは、文化祭に向けて盛大な悪ふざけを形にしようとしていた。
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