#045 優先順位

「本当に! シャルさんとは付き合っていないんだな!?」

「だから、そういう関係じゃないから」


 珍しく僕は、校舎裏に呼び出されていた。しかも同性に……。


「そ、そうか。そうだよな。お前みたいな冴えないヤツが……」

「ほっといてよ、自覚はしてるから」


 まぁ用件は師匠絡みだ。それ以外で僕に声がかかる事は無い。


「それじゃあ…………その、いいんだな?」

「なにが?」

「何がって、分かっているんだろ?」

「もちろん分かるけど、僕を練習台にされてもね」


 コイツは隣のクラスの…………名前は忘れたけど、たしかサッカー部のエースだかキャプテンだか。女子からもソコソコ人気があったはずだ。


「練習台って、俺は!」

「本人に直接告白アタックする勇気が無いから、僕からならってところでしょ?」

「ぐっ、それは……」


 まぁ師匠も転校当初ほど思わせぶりな態度をとらなくなった事もあり、告白の頻度は減っているらしいのだが…………そのせいもあってあらぬ勘繰りや搦め手にでるものが出始めていた。


「別に止める気は無いけど、たぶん無理だと思うよ」

「その、噂じゃ…………いや、なんでも」

「ギャバンが好きなのは僕だって話?」

「いや、まぁ……」


 僕も健全な思春期の少年なので、そういった期待や妄想の一つや二つ、無いと言えばウソになる。


「まったく脈が無いとは思っていないけど…………普通の恋愛は、まだ早いって思ってるんじゃないかな?」

「まぁ、そうなんだろうな」


 僕らはまだ中学生だ。中学生でも恋愛や、それこそ子作りは出来るのだが…………それはさておき、実際に付き合うとなると『どうしたらいいのか分からない』部分はある。


 下校を一緒にすればいいのか? 部活が同じなのですでにやっている。週末はデートに行けばいいのか? 映画とかお洒落なランチ的なのは分からないし、そんな財力もない。いっそこっそりエッチな事に励んでみるか? いけそうな気はするが、そんな事をしたら創作活動や部活動が滞ってしまう。それは僕も嫌だが、師匠も避けたいだろう。なにせ師匠の1番の目的は『アニメで見た日本の青春を謳歌する』事なのだから。


「恋愛とかエッチな事とか、人並みに興味はあるみたいだけど…………一番は、皆で楽しく青春を謳歌したいって感じだから、誰かと付き合って2人だけの時間になっちゃったら、それは1番の目的を捨てる事になっちゃうよね」

「つまり! (中学を)卒業すれば解禁ってことか!?」

「え? いや、それは知らないけどさ」

「それなら、まずはアドレスを交換し……。……」





「ん~、やっぱり、私の事みたいですね」

「なんだ、期待したのに……」

「…………」


 植木の陰から多久田たちのやり取りを観察するのは、シャルルと操。2人は多久田の行動を気にかけており、珍しい行動をとる彼のあとを追ってきた。


「つか、本当にモテるわよね。羨ましいわ」

「ミサオは、彼氏が欲しいのですか?」

「…………」

「すぐに否定、しないんですね」

「べ、べつに、想像できなかっただけ。恋愛とかそういうの」


 おたがい、核心は聞かない。それはデリケートな部分であり、今の関係が心地良いことを理解しているからだ。


「そうですか。それでは仮に…………ジュンがあの人(男)と付き合うとしたらどうしますか?」

「それは! いや、男同士だし、変な質問しないで」

「別に彼じゃなくてもいいです。たとえば1年の子に告白されて、付き合う流れになったら」

「それは…………まぁ当人同士の問題じゃない? その、今の活動を、おおお、疎かにしてほしくはないけど」

「私もですよ」


 操の狼狽える様子を見て、シャルルは察した表情を見せる。


「そうよね。まだ中学生なんだし、学業と言うか、他に優先すべきことが……」

「もしジュンが! 誰かほかの人と付き合う事になったら、仕返しで私たちが着き合いましょう!!」

「え? ちょ、何言ってるの!???」





「あと、ギャバンは同性もイケるっていうか、むしろソッチ専である可能性は考慮した方がイイよ」

「それは…………そうみたいだな」


 さすがにアレだけ騒がれたら気づくなって方が無理だ。あと、良いぞもっとやれ。


「僕だって恋愛に興味はあるし、ギャバンの事は嫌いじゃないけど…………今はまだ一線をこえるのが怖いし、なによりあの尊いものを守りたい」

「え? とうと、えっ??」


 どうやらコイツはオタク文化やミームには疎いようだ。そんなヤツが師匠と付き合うなんて無理な話。




 それはさて置き、僕は思いがけない呼び出しで…………今一度、自分の思いを客観的に見つめ直す機会を得た。

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