#026 文芸部

「本当に"今回の"は、私じゃないですからね」

「いや、まぁ……」


 第一美術部との一件があってから軽く人間不信と言うか、警戒心が高まっているのだが…………なんと、早くもまた他の部にお邪魔するイベントがおきてしまった。


「その、いいじゃない。こういう交流は有意義だと思うし、部の心象も良くなるんじゃない?」

「まぁ、それは分かっているから、こうして参加しているんだけど」


 ちなみに真犯人は分かっている。犯人は先ほどからもっともらしい理由を並べている委員長なのだ。


「はい、それじゃあ多久田さん、お願いします」

「あ、はい。えっと、皆さんも小説家に……。……」


 今回お邪魔したのは文芸部。その中でも(読む選ではなく)執筆活動にも興味がある人たちになる。まぁ、つまりはそういう事だ。小説については文芸部の皆さんの方が詳しいまであるだろうが…………僕が担当するのは大衆受け(ラノベ業界)するジャンルの解説や、数ある投稿サイトにはどんな特徴があるのかって部分を話す事になった。


「正直、そっち系の小説って、ストーリーが安直で、あまり良いイメージがないのよね」

「それはもっともだと思います。じっさい僕も、文学作品的な価値はほぼほぼ感じていません。ですが、これはそういうジャンルで、そういう人を対象にしているんですよ。子供向けの絵本には、子供という対象とその需要や意味があるように、ラノベや転生ファンタジーにも、それを読みたい人がいて、それを取り扱う市場が成立している。これは事実であり、商業的に成立しているジャンルなんです」


 底辺投稿者が偉そうに語っている姿に、僕自身違和感を感じてしまうが…………ひとまず身の危険は感じないし、一定の充実感も感じている。


「その、私は好きですよ。ラノベ。その、頭を空っぽにしてポテチ感覚で摘まむのに丁度イイっていうか」

「まぁ、そういうもの、なんでしょうけど……」

「正直なところ、ラノベが叩かれる理由は僕も理解できますが、ダメなのはチープなストーリーなどではなく…………そういった作品を運よく生み出してしまった軽い作家やその信者のプライド問題と"売れるから"で乱立された低クオリティのメディア展開作品群だと思うんですよ」

「たしかに、私もエターナルロードは面白いと思ったし…………その、アニメも全話、見ちゃったわね」

「え? 先輩、アニメは見ないっていってませんでした??」

「その、例外ってやつよ」


 ラノベ業界は昔からあったが、そこに個人発の転生ファンタジーが一大ジャンルとして突如乱立してしまった。いくら流行っているからと言って、数撃てばあたる理論で完成度の低いアニメや漫画を量産すれば、それは粗が目立つし反発する人も出てきて当然。せめて一般人が目にするであろうアニメ化は厳選作品に限定して、放送されるジャンルが極端に偏らないようにしていれば、世間も新しいジャンルを受け入れるための猶予期間がつくれただろう。


「まぁ、僕たちアマチュアからしてみれば、そのおかげで読者が集まりやすく、作家デビューするチャンスも増えたのでありがたい限りなんですけど」

「そういうところは、しょうじき羨ましいわ。いろんなところが頻繁にコンクールをひらいて、受賞しただけで書籍化して貰えるんでしょ? 敷居が低いから、それこそ小学生でも挑戦できるわけだし」

「権威があるのは良い事ですけど、それで挑戦する人が減っちゃったり、排他的になったら業界は先細りしてしまうでしょうし、見習えるところは見習わなくちゃですね」


 しかし、本当に有意義なやり取りが出来ていると思う。クラスでは浮いている僕だけど、ここではオタクに対して偏見がマイルドだし、ジャンル的にも知的で理性的だ。


「えっと、それで投稿サイトですけど…………ハッキリ言って最大手のプロナロをダメです。理由は……。……」

「そういうところは、やっぱり若いわね。読者も、運営も」


 投稿サイトは、直接的な利益還元目的なら利用者数が絶対正義だ。どんなに機能やコメントがクソで、サポートが終わっていても、数字が収益に、そして生活や活動内容に繋がっていく。


 しかし小説にかんしては書籍化率や『サイトと出版社の連携体制』も重要になってくるので分母至上主義は通用しない。


「あと、基本的に新生の投稿サイト、とくにスマホで簡単とか、誰でも簡単に収益化とか唄っているところはNGです。出版社との繋がりが薄いですし…………ぶっちゃけ著作権問題がガバガバなので危険です」

「なんだか、詐欺みたいな話ね。間口を広くして、カモを囲い込むみたいな」


 1番である必要は無いが、あるていど有名どころでなければヒットしてもキャリアには繋がらないし、中には二次創作や盗作問題などのルールやサポートが甘いところがある。


「一概には言えませんが、どうも仮想通貨がらみで各種投稿サイトを大量に作っている業者がいるらしいんですよ」

「仮想通貨がどうして?」

「僕も詳しくないのですが、ようするに取引が活発になるとその通貨の価値が上がるんですよ。それで…………中には目標金額に到達したら全部売って雲隠れ、みたいな悪徳業者もいるらしくて」

「あぁ、なんかニュースサイトで見たかも」


 もちろん全部が全部そうではないだろうが、売り上げなどを理由に突然サービス終了されたりしても困るし、新しいところはどうしてもUIが未成熟なので使いにくい。なにか特別な理由がないかぎりは、軌道に乗った投稿サイトの中から選ぶのが無難だ。




 そんなこんなで勉強会は下校時間いっぱいまで盛り上がり…………僕は話に絡めず寝てしまった師匠を起こして帰宅した。

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