#005 第二美術部②
「えっと、ここが第二美術部になるんだけど…………その……」
「「??」」
「あまり期待しないでね。そもそも専用教室じゃないんだから」
第二美術部の部室は情報室が使われている。まぁ、分かりやすく言えばパソコン室だ。その点で言えば第一美術部や金管バンド部などと同じだが、つまり漫研ではないのでオタクグッズが山積みになっているとかはない。
「あくまで美術部だもんね」
「仕方ないですね。本番は、高校に進学してからってことで。タノモーー!!」
「「!!」」
師匠の不意打ちに思わず身がすくむ。オタクでここまでアグレッシブなのは珍しい気もするが、動画などで見る外人オタクは陽気でコスプレ好きなイメージがある。もちろん目立たないだけでインドアな人もいるのだろうが。
「おぉ、たっ君だったか~」
「すいません、部長。一年じゃないけど、入部希望の転入生を連れてきました」
「「…………」」
部長は対応してくれるが、大半の部員はスルー。というか実質帰宅部が早くも帰ったあとで人口密度が著しく低い。
「私はシャルル・ギャバンで~す!」
「おぉ、宇宙刑事か~」
「「えぇ!!?」」
「わかりますか!!」
部長が宇宙刑事を知っていた事に揃って驚く。部長はオタクといえばオタクなのだが、二次創作などには疎いライト勢であり、バリバリの旧作を知っていたのは意外だ。
「ごめん、詳しくは知らないけど、動画で何度も見たから」
「おぉ、MAD動画ですね! 私も好きです!!」
「そうかそうか。言い忘れていたけど、アタシが部長の"
(近況ノートにイメージイラストあり)
言われてみればたしかに、動画のコラージュ素材として使われていたところを見た気もする。
ちなみに部長は、相手次第で陽と陰が入れ替わる。僕は年下で顔見知りなのもあって大丈夫だが、基本的に同年代以上、とくに異性は苦手で、年下なら"素"が出せる感じだ。専門は歌やゲームで、さらにそれらの派生動画にも詳しい。声もアニメ声なので、将来的にはバーチャルアイドルにでもなると予想している。
「えっと、私がお姉ちゃんの妹の"穂積
「おぉ、よろしくデース!!」
警戒というか、思いっきり外国人な師匠に戸惑う妹さん。彼女は1年で、現在体験入部中。でもまぁ、この様子ならこのまま入部すると見て間違いないだろう。ちなみにそれ以上の事は僕も知らない。
「それで…………この部では、何を作っているのですか? 動画とか、萌えイラストですか!??」
「いやぁ~、それは……」
「??」
部長が言葉を濁す。この部が帰宅部の受け皿になっているのは、顧問が常駐していないのもあるが…………それよりも問題なのが"機材"だ。
「出来ないんだよ。いや、簡単なものなら出来るんだけど…………パソコンのスペック不足と、ソフトの問題で」
「はい??」
動画編集にはそれなりのパソコンやソフトが必要になるし、ペンタブレットやカメラなどの撮影機材も欲しくなる。しかし学校にあるパソコンでは性能不足であり、おまけにフリーでも勝手にソフトを入れられない制限がある。一応、ブログ制作や簡単な写真加工は出来るのだが…………本格的なものを作るなら帰宅して自分のパソコンを使うしかない状況だ。
「そういうことで、悪いんだけど動画制作とかは教えられないんだ。まぁ…………むしろ私が教えてほしいくらいなんだけど。チラッ、チラチラ」
「いや、わざわざ口に出されても」
「「??」」
部長が、これでもかってほどに大胆な目くばせをしてくる。
この部で1番パソコンに詳しいのは、何を隠そう僕なのだ。もちろん僕もそこまでではないのだが…………従兄の兄さんが自作パソコンをやっていて、パーツを貰ったり、いざとなれば大抵の事は教えてもらったりできる。
「僕のパソコンなら、たぶん何でも出来ると思うけど…………さすがに持って来れる大きさじゃ」
情報室のパソコンはイジれないのだが、抜け道としては『許可を貰ってノートパソコンを持ってくる』手がつかえる。とはいえ、僕もハイスペックノートは持ち合わせていないので、やはり部室で本格的な活動は出来ないのだ。
「おぉ、さすがは師匠です!」
「師匠じゃないから」
「(スルー)それでは師匠の家でやりましょう!!」
「サンセイ~。アタシも……」
「お姉ちゃんはダメです!」
どさくさに紛れて部長まで乗り込もうとしてきたが、さすがに妹さんに止められた。この姉妹、暴走しがちな姉を真面目な妹が止める構図が確立している。見た目は順番通りなのだが、精神的な立場は逆らしい。
「えぇ~」
「ではでは、私はイイですよね!!」
「いや、それは私が許しません」
「そんなぁ~、ミサオ~」
「えっと、僕も、行き成りはちょっと」
師匠の行動力なら、本気で家に乗り込んでくるだろう。そんなことになれば…………僕の無防備なパソコンの内部が、クラスメイトの女の子に晒される事になってしまう。それはどうつくろっても拷問であり、社会的な死を覚悟しなくてはならない。
「ぐぅ、エロ本を漁るチャンスだったのに~」
「な、無いから!!」
本は!
そんなこんなで僕は、なんとか公開処刑を免れた。
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