番外編 傷を持った同士
「お主は、気づかないのか?いや、気づいておるのか?その姿にまで成長したということは、様々な命を刈り取ってきたのであろう。なにも思うことはなかったのか?」
空に浮かぶの土龍....
これが、彼の本当の姿....
背中に翼がないはずなのに、浮かび上がるそれはまるで、奇妙な神様のようにも思える。
今更の後悔?
そうか...
この龍も、同じく苦しんでいるんだ。今まで倒してきた魔物たちのことを思っているのか。
「.....感じないわけが!!ないだろっ!!どれだけ....どれだけ、辛い思いをしたと思っているんだ」
「.........」
空に浮かぶ土龍が、そっと瞳を開ける。まるで、予想もしていなかったかのように
「主は、望んだことではない闘いだったことはよく分かっておる。」
「いや、全然わかってない....僕は、僕は....あの日のことを考えて、考えて考えて....僕を救おうとしてくれた人を殺してしまった。目の前で、助けられるはずだった命が消えてしまった。僕はっ!!僕はっ!!」
苦しい....苦しいんだ....
倒してくれなかった...
やり方が、卑怯だった....
だからなんだっていうんだ。自分のことを分かってくれた人を殺してしまった。
もう....僕は....
「.....主は、私以上に、モノを考えているのだな」
「あんたと同じだよ。好きな人を、そこの火竜に滅ぼされた。」
「むっ.....」
いきなり、ヘイトが回ってきた火竜は、少しだけ嫌な顔をする。
だけど、そんなこと知ったことじゃないっ...
「あんたは、僕を殺して....嬉しいか?僕は、ただ生きたかっただけなのに...」
「ワシは.....」
空に浮かぶ彼は、今では少し弱そうに見えた。自分が思っていることを、そのまま伝えたからだろうか....
「お主は、そうやって....罪を背負い続けるのだな。」
「........」
多分、ここでこの龍を殺してしまえば....ずっと、忘れることができると思う。
でも、この竜を殺さなかった場合、俺はずっと生き続けることになる。そんな予感がしていた。
火竜をそっと見る。どこか、僕と同じく目をしているように思う。
どこか....疲れたような、それでいて...決して、死ぬことはできないような...
深い深い思いが....
「ワシは、寿命を削って、龍となったもはや四元素の竜などという話ではない。」
僕も龍だ。だけど、真の龍ではないからきっと負けるだろう。
「ワシらは、ずっとその贄を背負い続けなければならない。時に、破壊をし、時に支援をし....その身が死ぬまで我らの竜いや、龍としての高潔さを保たなければいけない」
僕の答えは、きっとそこにあるのだろうか....
その考え方が、僕を救う手段となりうるのだろうか....
分からない。
「スライムよ....いいのだな?」
火竜が、そっと声をかける。僕は、頷いた。
「主のことを、龍と認めよう」
土龍はそう告げる。こうして、僕は正式に龍の仲間入りを果たした
僕らは、一日に一度世界を巡り空へとはばたく。
空をかける時が、僕を解放してくれるような気がする。
「そっちの方は、どうだった?」
「あぁ...ダメだな。我の呼びかけにすら応じることはなかった」
「そうか...なら、滅ぼすしかないか....」
僕は、レッドドラゴンと並走していた。
最近、レッドドラゴンが管轄している西諸国にある王国が戦争を起こす準備をしているらしい。
一応、一声忠告はしたらしいのだが、中々効かないらしいので、ついに決断をするべき時が来たのかと億劫な気持ちになる。
「どこまで介在するべきか考えるべきではあるが、戦争というのは悲しみしか産まん。あのままにしておけばよかったものを」
「なるべく被害は、最小限にしよう。私利私欲に塗れたクズどもだけを排除する形で」
「そうか?いや、そう言った細かいことをするのは、苦手なのだがな」
「でもお願いだ。大勢の犠牲者を出すのは嫌だけど、その人にはその人を悲しむ人がいる」
「.....そうだな。」
「おぉ!!来おったかっ!!遅いではないかっ!!貢ぎものとして、お酒を貰ったのじゃ。ほれっ!!これじゃあ」
『........』
土龍とも顔を合わせている。
戦わなくてよかったと思うと同時に今でも苦しめられるあの日の出来事を忘れることはない。
そして、仲間の竜を殺してしまったこと...自己防衛だとしても、辛いものは辛いだろう。
「遅れてすみません。」
「いいのじゃ、いいのじゃ...その、重さがお主の償いじゃからな...存分に苦しむといいわ」
「そ、そうですね」
正直言って、微妙に返答しづらい。チラッと火竜も見る。
彼も、うっ...と辛そうな顔をしていた。
「はぁ....お主ら、全くなぁ.....どちらも赤なのに、しょぼくれた顔なんてするな。そんなことより、お供えものじゃあ!!食べるぞいっ!!」
「こ、こんなに多いんですかっ!?」
自分たちが、丸一日食べられるほどの量のお供え物があった。
それと同時に、こんなに多くものを持ってきた土龍のヤバさに少し引く。
「龍じゃからの」
「僕でも、できませんよ」
「我は、少し肩身が狭いな」
「今じゃ、レッドドラゴンが一番弱いだからね」
「弱くはないわっ!!お主らが強すぎるんだっ!!」
僕と、土龍は顔を見合わせる。そうかな?
「全く...何も分かってない者共を見ると、燃やしてしまいたくなるわっ!」
「そんなことより、今日は宴じゃよ。ほれ、食べるぞ」
「えぇ...こんなに、食べれませんよ....」
今の生活に、文句はない。
常に、昔のことを思っていることは辛いけど...それ以上に、大事なこともある。
全てを割り切ることはできないけど...死んでしまった後で....僕が殺したみんなには謝りたいと思う。
だから...
空を見上げる。
「きちんと、背負って生きていくから....」
END3 スライムくんがレッドドラゴンと一緒に働く物語
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