第2話 初めての進化
「あ....い......」
なぜか、声帯ができ始めたみたいだ。
.......。
そんなことは、今はどうでもいいか。
とりあえず、僕は、空を眺めることにした。
ひらけた湖のそばで、僕は
そうやって水色の潤った自分の体を眺めていると
彼女の髪の色、恐怖に染まった顔、そして跡形もなく火に焼かれてしまった光景を思い出す。
あー....なんで、こんなに彼女のことが思い出されるのかな。
そんな虚しさを夜の月が、ぼんやりと照らしつける。
草花を風が通りすぎ、揺れていく。
赤い色の大きな物体が、僕の上空を飛翔して、ゆっくりと降りてくる。
あの時と同じ目が、僕を
「貴様は、あの時なにを思った?」
赤い竜が、僕に話しかけてくる。
なにを....僕は、なにを思ったんだろうか?
そんなことを言われても、なんて言っていいのかわからないけど。今はただ、なにかが足りないような気がする。
「答えることはないか」
答えられないの間違いだと思う。
声帯ができ始めたといえ、
それ以前にこのドラゴンは、僕に話しかける必要があるのだろうか?
僕は、スライムだ。スライムに話かけることほど、無意味な時間はない思う。
「人間は、な。罪を犯す生き物だ。お前は、辛く悲しい思いをしているかもしれないけどな。あそこに、住むものたちは、私の住処から財宝を奪おうとした。その報いだ」
「........し....ら....」
「知らないか?クックックッそうだな。そういうであろうな。だがな。お前は、ずっと、恋焦がれている。あの少女に」
「.........」
「我には、見えるのだ。全てが全てがな」
....なにかが、変だ。
何もかもがおかしい。それじゃあ、まるで分かっていたかのようじゃないか。
つまり、初めから少女を殺すつもりだったということじゃ...
心の中をなにかが、噴き上げる。
このドラゴンが近くにいるだけで、体がプルプルと震えてくる。
「あ....っ.....ち...い...」
「なに、ほんの戯れだ。お前はずっと追っているようだがなあの子どもは、生き返らない。絶対にな。絶対に...」
苛立ちが、限界に達してウチから込み上げるものを吐き出した。
ピュッと、僅かな火の粉が、ドラゴンの姿をかき消す。
驚きの表情を浮かべたドラゴンは、つまらないものでも見たかのように飛び去って行った。
二度と関わりたくないと、これほど思ったこともない。
ただひたすらに むしゃくしゃ していた。
僕は、森の中へと再び入り、木で体を冷やす。
火を使ったあとのボディは、直接炙ったかのように、熱くなっていた。
もちろん、自分自身を落ち着かせるためにも必要なことだったけど...
あぁ、この熱は嫌いだ。
生理的に嫌悪感を誘う。スライムに生理的もなにもないが...
ひんやりと冷たい木が僕の体を、冷たく冷やしてくれていた。
少しだけそうしてると、木の穴の中から静かにスライムを狙う、蛇が出てきた。
スモールバジリスク
下級の魔物で、小さな子供などがよくが倒す弱めの魔物だ。
しかし、油断は禁物で...
その牙には、毒があり、刺したものを麻痺させて噛み殺す。という習性を持っている。
カップッと、なにかが僕の体に刺さったような気がした。
ふと、そちらを、見てみると...蛇のような魔物が、僕の体を刺していた。
紫色の液体が、僕の青い体に流れてくる。
.....別に、どうでもいい。今は、この気持ちよさに身を任せていたい。
最初はそう思っていたのだけれど、その蛇を
なぜだろう。
あー、この毒を眺めていると彼女の透明な紫色をした
体の中を、溶けていく毒を眺めていると彼女のことを鮮明に思い出す。
「なぁ....お前、僕を癒してくれよ」
噛み付いている部分から、一気にヤツを取り込む。
スモールバジリスクは、バタバタ動き回って逃げようとするけど、なんとかソイツを食うことができた。
.......。
けれど、毒は少量しか見ることができなかった。
ピリピリと体が痺れる。けど、これっぽっちじゃ彼女を思い出すには全然足りない。
欲しい....
この毒をもっと...あの子を思い出させてくれるこの色の毒が
そうして、気づけば僕はスモールバジリスク狩りをしていた。
ありったけの力を込めて、木に体当たりをする。
住処を揺さぶられ、怒りで我を失ったスモールバジリスクが噛み付いてくる。
僕はあえて噛まれにいき、そいつを一飲みで取り込む。
そうして、毒が、刺さった時にだけ...夢が見える。
あの子の夢が...
噛まれて、食って...
噛まれて、食って...
........これは、毒だ。
ただの毒だ。彼女の瞳なんかじゃない。
始めの頃は、思い出せたものが、回数を重ねるごとになにも見えなくなっていった。
「あれ....僕、なにをしていたんだっけ...」
僕は、気づけば、僕は目的を見失ってしまっていた。
いつからか、スモールバジリスクを殺すために飼っていた。
ふと、僕の体を見る。
噛まれ続けた僕の体は、気づけば紫色に変わっていた。空色のあの綺麗な色ではない....
毒々しい紫へと
なにも...なくなってしまった。
彼女を思い出せるものが
「あぁ....戻りたい、あの彼女の綺麗な髪の色と同じ青い色へと」
青い体に、戻りたい
『レベル20のスライムは、レベル1のポイズンスライムへと進化した』
ふらふらと飛び跳ねる体が、哀愁を漂わせる。
もはや、スモールバジリスクを見るだけで、嫌悪感が湧き始めていた。
「別の場所へと行こう....」
僕は、森から出ることにした。
今日は、生憎の曇り空だ。
確か、空は、透き通っていたはずだ。
雲の上には、僕の体と同じ透き通る青い色の世界が広がっていたような気がする。
空へ、空へと....自分の丸みを帯びた体を、引き伸ばして空に伸ばす。
届くことのない。空へと....
森の奥を抜けると、雲を突き抜ける山があった。
あの山なら、きっと...
そんな淡い期待を背に、草むらをかけていく。
途中群れで動いていた狼が襲ってきたので、適当に毒をばら
殺すことすらバカバカしい。
狼が、周りの小さな魔物たちに殺される。
一角うさぎ、緑の宝石を頭に入れた鹿、毛を逆立てて赤い瞳を光らせる猿。狼たちを
あぁあ!!うっとおしいなぁ!!
「うるさいんだよっ!!お前ら」
ポンッという音とともに
狼の体から小動物たちへと流れこんでいった毒が、彼らの体の中で燃え上がる。
あちこちで、火が彼らを焼き尽くし始める。
小さな魔物たちが、声にならない悲鳴をあげて、バタバタと倒れる。
キィイイイ!!!
ギュイイ!!!
キィヤァアア!!!
森は、燃え上がる彼らの体についた火を、必死でもみ消そうとする姿や、声を上げ助けを求め叫び声をあげる魔物たちの地獄絵図へと変わっていった。
『ポイズンスライムは、上位種 ポイズンスライム(赤)へと進化した。』
その叫び声が、さらに自分を苛立たせる。
尽きない怒りが、スライムくんの体を焦がす。
そして、尽きない恋も、スライムくんの体を焦がし続けている。
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