文月の歌 上

七月一日

祖母の歌 幼き吾が顔を出す

将来の夢 アニメ作家と


祖母は昔はよく短歌を詠んでいました。夫や母の死、海外旅行など、  

その時々のことを短歌にしていて、子どもの頃の私も時々顔を出し。

昭和五十四年から平成七年までに千首以上を残しています。

祖母の本歌は「将来はアニメ作家を夢見る孫に漫画止めよと言い難き吾」



七月三日

朝はパン 珈琲淹れて ヨーグルト

ハイカラな祖母 目玉はかため


大正生まれの祖母は、昔から朝食はコーヒーとパン、となかなかハイカラ。ならばスクラングルエッグをあわせたいところだけれど、近頃は目玉焼き一択。それも中までしっかり焼けたものがお好みのよう。



七月四日

ままならぬ この身憎しと嘆く祖母

アイス別腹 寝ながら至福


祖母は甘いものに目がない。具合が悪いとごはんも食べずに横になったけど、アイスを見たら目が輝く。

寝ながら食べるなんて行儀が悪いと言っていた祖母だったけど、年をとってそんな背徳が許されるようになってもよいのかも。



七月五日

『あさイチ』で介護の苦労語る見て

素知らぬ顔でうなずく祖母よ


実家の朝の定番は、八時の朝ドラからのあさイチ。

介護特集にうんうんとうなずく祖母を見て、母がひとこと。

「介護される側でなく、する側と思ってるのよね」



七月六日

枕元 亡き妹が来た朝に

仏壇拝み 語り合う祖母


三月に九十才で亡くなった祖母の妹。

朝起きて、その妹が会いに来てたと言う。

朝から思わずどきりと、そしてしんみり。



七月七日

母·祖母と事前投票 小旅行

誰かの名前 書くは久しき


母と祖母と三人で、事前投票に行ってきました。

祖母もなんとか無事投票ですが、高齢者は免許返納みたいに、

投票権返納という選択が生まれてもよいかもと個人的には。



七月八日

外を見て必ず「雨?」と聞く祖母は

いつまでも梅雨 晴れない心


窓の外に気が向くと、どんなに晴れていても「雨?」と必ず聞く祖母。

「降ってないよ、晴れてるよ」と返事をしても、そこまで関心はない様子。

挨拶みたいなものらしいけど、降ってるかどうかはつねに気になるようで。



七月九日

テレビでは狙撃のニュース繰り返す

記憶残らぬ 祖母は平常


七月八日、奈良市の近畿日本鉄道大和西大寺駅北口付近にて、

元内閣総理大臣の安倍晋三が選挙の応援演説中に銃撃され亡くなった。

繰り返す銃撃のニュースに気が滅入るけれど、祖母はふむふむと字幕放送

を追いかけている。

今の祖母には、目の前のメロンほどのインパクトも残さないようだけれど。



七月十二日

菓子箱をトキメキ開ける祖母なれど

すでに物入れ 「誰が食べたの?」


きれいな菓子箱や缶は、中身を食べ終わった後は物入れや書類入れに。祖母は机やピアノの上に置かれた菓子箱を見ると、おいしいものが入っていると思うようで、開けずにはいられない。開けて中身がお菓子でない時のがっかりした顔がなんとも。

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