16.ミノちゃんを卑劣なストーカーから守れ!
「おーい、ミノちゃーん」
「ひゃあっっ!」
アリシアがミノタウロスに声を掛けると、ミノタウロスは想像以上に驚き、その筋肉質な肩を揺らす。
「な、なんだ……
「ど、どうしたんだ? ミノちゃん……そんなに驚いて……」
「い、いや……別に何でも……」
ミノタウロスは目を逸らす。
「ん……その顔は何か隠しているな? 私にはわかるぞ」
「そ、そ、そ、そんなことないよぉ」
隠しているなぁ……とクガ。
<明らかに隠してるなぁ>
<露骨で草>
<わかりやすいミノちゃん、かわええ>
「水臭いぞ、ミノちゃん、私達の仲じゃないか、言ってごらんよ」
「う、うん……そうだよね……わかったよ……実は……」
ミノタウロスは腰をかがめ、アリシアに耳打ちする。
アリシアはふむふむと聞いている。
<なんだろう>
<気になる……>
「じ、実はね……私……今、ストーカー被害にあってて……」
<ミノちゃん、ごめん、めっちゃ聞こえてる>
<こんなか弱い女性を……>
<許せん>
<クガ、犯人をやれ>
「……」
ミノタウロスの可愛らしい声は通りやすく、ひそひそ声が丸聞こえであった。
「な、なんだと……!? それは許せない。大丈夫! ミノちゃん、私達が撃退するから……!」
「え……? 本当……?」
「勿論じゃないか」
こうして、アリシアとクガはミノタウロスのボディガードをすることとなった。
◇
「よかった……これでお家に戻れる……」
聞くとミノタウロスは数日前から不審な気配を感じ始めたそうだ。
それは次第に確信へと変わり、今日は恐くて人通りの多い大通りに避難していたという。
その巨大な斧で、一思いに叩き潰せばいいのでは……? とクガは思ったが……
<なんて気の毒な……>
<卑劣なストーカー……絶対に許せねえ>
<犯人は万死に値する>
なぜかリスナー達からはそういった意見は出てこない。
そうこうしているうちにミノタウロスの家に辿り着く。
ミノタウロスの家はアリシアの仮住まいをそのまま三倍にしたような家であった。
……
「はぁ、よかった……恐くて飛び出してきちゃったけど、水をあげるのを忘れてて……大切に育ててたから、本当はとても心配だったの……」
そんなことを言いながら、ミノタウロスは庭の家庭菜園に水を与えている。
「この野菜は一日、水をあげないだけでも、枯れちゃったりするみたいだから……」
クガも見ると、トマトのような野菜が実を付けている。
赤い実もあれば、緑の実もあり、ちょうどもうすぐで収穫できるといった頃合いのようであった。
ミノタウロスはそんな植物達を愛おしそうに見つめている。
<あかん……誰だ、ミノちゃんをS級ボスに設定した奴は……>
<こんな優しい子、討伐できるわけねえだろ>
<誰かがミノちゃんを討伐しようと言うなら、恐らく俺はミノちゃんを応援する>
「お前達、わかってきたじゃないか」
アリシアは妙に満足気だ。
と……
「「「っっ!」」」
アリシア、ミノタウロス、そしてクガの三名は只ならぬ気配を感じる。
「ミノちゃん、これか?」
「う、うん……だけど、今までより遥かに強い気配を感じる」
「クガ、ひとまず庭の外を探すぞ……! ミノちゃん、怖いと思うけど、付いて来て! 多分、私達といる方が安全だ」
「うん」
そうして、三名は庭を囲っている
すると、生垣に貼りつくように内部を
その者はゆっくりと三名の方に振り返る。
その者は二足歩行……上半身が狼の姿の魔物であった。
ミノタウロスに負けず劣らずの巨体である。
<でけえ>
<おいおいおい、まじか>
<こいつってひょっとして、S級ボスの人狼……?>
「ん……? そうなのか?」
=========================
【現在のS級ボスリスト】
・バジリスク
・アラクネ
・人狼 ← こいつ?
・ミノタウロス
・スライム
・アンデッド
・妖狐
・機械兵
=========================
「おい、人狼とやら、ミノちゃんに何の用だ!?」
「……僕はただミノタウロスに危害を加える者がいないか監視していただけだ」
「え……? そうなの……?」
「そうだ……ミノタウロスを守ることができるのは僕だけなんだ……」
「ひっ、なんなんですか!? あなたのことなんか、知りません」
「またまたそんなこと言って、ミノタウロスは恥ずかしがり屋だなぁ。まぁ、そんなところが可愛くもあるのだけど……」
<魔物の世界にもいるんですね……>
<これは真正ですね>
<ミノちゃん、逃げてぇええええ>
「それなのに……どうして……ミノタウロス……」
「……何?」
「どうして人間などと……」
「……!」
「人間などと関係を持つと、S級としての君の品位が……君の美しさが失われるではないか……」
「と、友達の何者かを悪く言うのは止めてください!」
「ミノちゃん……」
アリシアは横に立つミノタウロスを見上げる。
「いいんだ……ミノタウロス、か弱い君は彼らに洗脳されているのだろう……可哀そうに……」
「違います」
「出会いは花屋だった……可憐な君に、僕はほとんど一目惚れだった……」
<なんか始まったぞ>
<唐突な自分語り>
……
その後、しばらくストーカーのミノタウロスへの一方的な想いを聞かされる。
一通り話すと満足したのか……
「まぁ、いい……今日のところは引く……また会おうじゃないか……」
「引いてるのはこっちです」
「っ……」
<草>
<たし蟹>
ミノタウロスの
「「「……」」」
一瞬の静寂の後、アリシアは覚悟めいた口調で言う。
「……クガ、決めたぞ」
「ん……?」
「……
「……」
えぇ……ちょっとやだなぁ……と思う、クガであった。
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