⑥ 握手
「……ねえ。でもさ、宇宙人って、やっぱり、脚がいっぱいのタコみたいな姿なのかな?」
夕食後、家に送っていく途中、星空を見上げているとき、彼女は言った。
「……ちゃう! と思うで。……一体誰が、宇宙人タコ説広めたんやろな。」
力一杯否定したものの、あまりに断言するのもヘンなので、僕は、「と思うで」と付け足した。
それにしても、一体どこの誰だ。そんな説広めたの。僕らは、タコとちゃうで。
思わずぼやいてしまう。
そんな僕の内心には気づかず、彼女は、
「ふふ。タコ姿も可愛いよね。それに、たくさん手があったら、一度にたくさんの人と握手できるしね」
「握手か……」
言われてみれば、それもいいかも。そんな気がしてくる。
たくさんの手で、たくさんの握手ができる。
頭の中に、宇宙船から降り立ったタコのような宇宙人が、たくさんの人と笑顔で握手してる姿が目に浮かんだ。同時に何人もの人と、手を繋いで笑顔をかわす。ちょっとマンガみたいだけど。悪くない。
そうやね。
たくさんある手(脚?)は、同時にたくさんの人の手を取って握手するため。
そう思うと、なんか平和であったかい気持ちになる。
彼女の言葉に深い意味なんかないのかもしれない、ただ思いつくままに言っただけの言葉かも。
それでもいい。
この手は、誰かと戦うためのものじゃない。そっと誰かと繋いで、幸せを感じるためにある。そう思えることが、嬉しいと思った。
下宿屋に戻ると、サキトを囲んで、みんなが盛り上がっていた。
「なんかさ、握手の約束してんて」
ユウトが僕に嬉しそうに言ってくる。
(ここでも、握手の話題?)
「なになに? 誰と?」僕が訊くと、
「同じ学年の子。好きですっていうから、友達なら、って握手したら」
照れくさそうにボソッとサキトが説明する。
「その子が、もうずっと手を洗わへん、っていうから」
横からユウトが、
「手はちゃんと洗いや、握手くらいいつでもしたげる、って、サキトが言うたから」
学年の女の子たちは、大騒ぎになったらしい。
同じ学年でも、クラス数が多いので別棟の校舎にいるユウトたちにまで、その噂が聞こえてきた、というから、よほどだ。
「明日から、握手して、っていう女子、めっちゃ増えるんちゃう?」
ユウトがちょっと心配そうに言う。
「いやあ~、……それはないやろ。そこまでは」
そういいつつも、ちょっとだけ不安そうに、サキトが首を傾けた。
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