第5話 元服(繁信14才)
空想時代小説
宮城県蔵王町に矢附という地区がある。そこに西山という小高い丘があり、その麓に仙台真田氏の屋敷があったといわれている。ただ、真田信繁(幸村)の末裔とは名乗れず、白石城主の片倉の姓を名乗っていた。その真田の名を再興するべく、信繁の孫である繁信が活躍する話である。
小正月があけ、世の中が平常になってきたころ、矢附の屋敷で弁四郎丸の元服式が行われた。父守信が昨年亡くなっており、当主は兄辰信である。名付け親は、師の三井丹後の予定であった。しかし、烏帽子をかぶる寸前に、3代目片倉小十郎が馬でやってきた。
「大義である。わしが烏帽子親となろう」
とかって出てきた。
弁四郎丸に烏帽子をかぶせた上で、用意していた紙に筆を取り
「源四郎 繁信」と書いた。そこにいた面々は、オオーと声を出した。祖父の名は、「源次郎 信繁」だ。その名を変えただけではないか。いくら名字を片倉と名乗っていても、これでは真田ゆかりの名前と思われるのではないか。誰しもが思った。
「これは亡くなった守信とかねてから決めておいた名じゃ。長子の辰信には真田ゆかりの名は難しいが、二男には真田ゆかりの名をつけたいというのが守信の願いであった。いずれ、真田の名に復姓する時があるであろう。その時は、祖父の姿を思いおこさせるような侍になれ」
「はは、分かり申した。源四郎 繁信の名、ありがたく頂戴いたします」
「うむ、それでは早速、白石城の阿梅の方にあいさつに行かれよ。お主の元服姿を見たいとおっしゃっていた」
伯母である阿梅の方には、何かと目をかけてもらっていた。守信、辰信にも阿梅の方は目をかけていたのだが、表だっては声をかけることはできなかった。真田の血筋ということを幕府に勘ぐられるのを避けたからだ。しかし、部屋住みの立場である繁信には、幕府も警戒していない。近くに住んでいたということもあり、顔を見に何度も行くことができたのだ。
馬で白石城に駆けつけた繁信は、庭にて阿梅の方と対面を果たした。どこに幕府探索方の目があるか分からぬので、言葉を交わすことはなかったが、縁側を歩く阿梅の方の目にとまるように膝まずいていた。阿梅の方は、繁信の姿を見て、付き添いの者に
「父の若き姿を見ているようじゃの」
と涙ながらに話をしていた。
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