第3話 小姓となる(繁信13才)

空想時代小説 


 宮城県蔵王町に矢附という地区がある。そこに西山という小高い丘があり、その麓に仙台真田氏の屋敷があったといわれている。ただ、真田信繁(幸村)の末裔とは名乗れず、白石城主の片倉の姓を名乗っていた。その真田の名を再興するべく、信繁の孫である繁信が活躍する話である。


 小十郎が矢附の屋敷に来て1ケ月後、弁四郎丸は白石城に呼び出された。そこには、小十郎と阿梅の方と、元服前の若衆が一人いた。弁四郎丸は、着慣れぬ若侍姿に戸惑いを隠せず、歩くのも座るのもぎこちなかった。袴など普段はかないからだ。

 そんな姿を見て、小十郎が口を開いた。

「ハッハ! 弁四郎丸、袴は初めてか?」

そう聞かれたので、弁四郎丸は恐縮してうなずくだけであった。

「まあよい。今日呼んだのは、お主をここにいる長男である4代目小十郎の小姓になってほしいからだ。まあ、小姓といっても遊び相手になってくれというところかな。馬がけ、剣術、兵法など。師は、今までどおり三井丹後と我妻出羽じゃ。二人で教えをこうのだ。どうだ?」

弁四郎丸は、返事を躊躇していた。突然の申し出で、返事ができぬという状況であった。気がかりは、仙台の屋敷で伏せっている父守信の意向だった。

「はっ、ありがたき幸せ。ではありますが、自分一人では決められませぬ。父の意向も聞かねばなりませんし、兄の意見も大事でござります」

その返答に対し、小十郎は

「もっともじゃ。母上、その件は?」

小十郎の母上というと阿梅の方。今まで何度か真田屋敷で見かけたことがあるが、父守信の実の姉上である。弁四郎丸にとっては、伯母にあたる。亡き真田信繁(幸村)の二女で、2代目小十郎の後室になり、幼い3代目小十郎を育てた母である。

「弁四郎丸、そなたの父には文を書き、内諾を得ている。そなたの兄は今度、若殿様の小姓となることが決まっておる。そなたが、4代目小十郎のそばに上がっても何も問題はない」

弁四郎丸は受けざるをえない気がしたが、気のない返事をした。

「それでは、お引き受け申す」

それに対し、阿梅の方が

「その言い方、幼きころに見た父信繁が祖父昌幸公に不服そうに答えた言い方にそっくりじゃ。やはり血筋だの」

阿梅の方は、含み笑いをしていた。

「母上、弁四郎丸は矢附のガキ大将でなくなるのが寂しいのでござるよ。ハッハ!」

確かに小十郎のいうとおりだった。お城勤めは窮屈そうで、弁四郎丸にとっては、きつい生活が待っているかのようだった。

 ところが、翌日からは1才年下の4代目小十郎に振り回される日々となった。今まで城内ばかりで過ごしていたのが、馬がけができるようになり、弁四郎丸を引き連れて、城外へ出ることが多くなったからである。矢附の屋敷まではひとっ走り。お茶を飲んで、城へもどってきても一刻(2時間ほど)、途中の河原で石投げをしたり、村の若衆のケンカの仲裁に入るなど、弁四郎丸以上のガキ大将ぶりだった。武芸の師である我妻出羽が付き添っているのだが、若殿相手にはさすがに意見を言えないようだった。

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