第24話 カイザー海賊団

ハッタン王国 国境港


 砂漠の国に、突如として血と炎が満ちた。

 襲来したのは、勢力を急速に拡大していたカイザー海賊団。港を埋め尽くす兵士と海賊の死体、砂に吸い込まれる返り血が、戦場の惨状を物語っていた。


 まだ少年ながら、フロスト王子は前線に立ち、圧倒的な格闘術で次々と敵を打ち倒していく。

「ひるむな!攻撃を続けろ!」

 その声に兵士たちは奮い立ち、雄叫びをあげて突撃した。


 後方では、魔法研究者のメントが杖を構える。

「くらえ、光魔法――ビーム!」

 放たれた光弾が海賊たちを薙ぎ払う。しかし、敵の数は減らない。海賊船から次々と黒旗を掲げた男たちが上陸してくる。

「……らちがあきませんね!」メントは額の汗をぬぐった。


 そのとき――。

「フロスト!」

 砂煙を切り裂き、一人の男が現れた。長刀を背負い、堂々たる気迫を放つ王――ゼンである。


 ゼンは息子の隣に立ち、一枚の羊皮紙を差し出した。

「いいか、奴らの狙いはこれだ」


 フロストがそれを受け取り、目を見開く。

「まさか……《メテオ》の書物……!?」


「そうだ」ゼンは低く答える。「フロスト、これを持って船で逃げろ」

 そして、ごつごつとした手で息子の頭を撫でた。


「俺も戦う! 親父を一人にさせるもんか!」


「お前が……この国の王になるのだ」


 その言葉に、フロストの瞳から涙がこぼれる。

 父の背を振り返りながら、彼は兵士たちを伴い港の船へと駆け出した。


 ――その数秒後。

 海賊船の舷側から、ゆっくりと一人の男が降り立つ。茶色のコートをまとい、片目に黒い眼帯、顔には大きな火傷の痕。


 ゼンは長刀を抜き放ち、険しい声で名を呼んだ。

「カイザー……!」


 カイザーは砂に靴を沈めながら、周囲を見渡した。

「美しい大地だな。だが、今日で終わる」


「貴様の狙いは《メテオ》か」


「ああ。キングス様の依頼でな」

 男は口の端を歪める。「魔導書を渡してもらおうか」


 ――キングスグループ。

 海賊たちの頂点に立つ巨大な連合。その傘下には、カイザー海賊団、ヨーヨー海賊団、フェイス海賊団、ジール海賊団、ティード海賊団。

 そしてその中心に座すのは、海を統べる王――「海王」キングス海賊団であった。


 ゼンは地を蹴り、構えを正す。

「渡すことはできん。この命に代えてもな」


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