第22話 保護、そして小屋

 コロウは背中に眠りこけた太郎を負いながら、息を荒げつつ山道を進んだ。ようやく霧の晴れ間に、木立の奥に隠れるように建つ小屋の灯りが見える。


 扉を叩くより早く、中から小さな声が漏れた。


「……おじさん!」


 赤髪の少女が飛び出してきて、コロウの胸にしがみついた。


「無事でよかった……!」


 少女の瞳は涙で潤み、声は震えている。


 コロウは苦笑し、荒い息を吐いた。

「遅れてすまん、璃々」


「ううん、いいの……帰ってきてくれた、それだけで」


 短いやりとりののち、コロウは扉を押し開け、小屋の中へ入った。

 ぎしりと軋む床に足を踏み入れ、太郎をそっとソファに横たえる。


「璃々、らいに薬は飲ませたか」


「もちろん。さっきまで苦しそうだったけど、今は少し落ち着いてる」


 布団に包まれた幼子が、奥のベッドで弱々しく咳き込んだ。

 らい――数年前、オークション会場でコロウが救い出した子。

 拷問の傷で左目を失い、脚の神経も断ち切られて二度と歩けない。


 その過去を思うだけで、胸が締め付けられる。


 一方、璃々もまた異世界に迷い込んだ少女だった。

 奴隷オークションにかけられ、肉屋に売られ、ミンチにされる直前でコロウに救われた。

 それ以来、彼女はティード海賊団に復讐するため、毎日武術を鍛錬している。


 コロウは部屋を見渡し、焚き火の灯りに照らされた仲間たちの顔を確かめた。

「……今夜はもう休もう。みな疲れただろう。特に太郎はな」


 その声は、いつになく柔らかかった。

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