第25話 環境芸術団体「忍(SHINOBI)」

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 大阪市役所本庁は中之島にある。

 中之島は上町台地の北部にある。勿論、島である以上台地ではないのだが、俯瞰的に見てその位置にあり、遥かな古代、大阪東部一帯が海面下であった時分には古代船から見えた海上都市アクアポリスの一角で、海原を泳ぐ鯨も古代人の残影として此処から見えていたことだろう。

 現在は上流の毛馬水門で分れて流れ込む大川から堂島川、土佐堀川が中之島でY字に分かれ、その始まりと終わりをまるでお稲荷寿司のようにした形で「中之島」として皿に盛ったような感じでぽんと地図上に置かれ、そのお稲荷の右端に大阪市役所本庁がある。

 その本庁に不審なメールが一通送られて来た。それは区政市政への意見等というどこの行政主体も持ち得ている普通の謂わば市民向けの目安箱のような処である。

 それを見た担当課の職員は紙に印刷して上長へ報告した。報告を受けた上長は報告に来た担当職員と共にその内容を見て、まず、どうすべきかと考えた。

 内容が真実であれば、何か非常な手を打たないといけないが、しかしながら悪戯でもあるかもしれないという可能性がある。

 それらの是非を探るという事は、まるでよく切れる剃刀の上で指を滑らせて「見給え、是は偽物だった、本物だった」という判断をこの初見でせねばならぬことであり、いきなりではあるがこの瞬間が現場判断の重大な切所として既に大事な局面になった。


 ――どうすべきか?。


 幾つかある選択肢の中で適正な判断経路を迷わず選択するのが、こうした時には必要だ。

 上長は報告に来た職員に「まず、私にメールを転送」と指示した。そして印刷されたメールはシュレッダーに入れて破砕した。

 その後、担当職員を呼び寄せて或る部署名を伝え「直近にメールの差出人である団体から市へ何か提出されていないか確認を取るように」という指示を行い、自分は自ら内線番号を押してある部署の相手が内線に出ると「――今からちょっと伺います」と訪問の件だけ伝えた。

 印刷されたメールは上長のパソコンから今自分が向かうべく場所へ送られ、送信が完了されると席を立ち上がり、そこへ向かった。

 立ち上がり歩きながら上長その人が思ったことは勿論、できれば悪戯であれば、と言う願いだった。

 送られて来たメール。

 それは大阪市内の数か所のアート建造物、その内の何処かに巨大な爆弾を仕掛けたというメールだった。 


 そして差出人は

 

 ――環境芸術団体「SHINOBI


 と、書いてあった。

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