第22話 青春の味は『筋肉バーガー』
(22)
急に話題を振られて甲賀が身を固くする。
「うん、そう、それ」
コバやんが頬を撫でる。
「一度、聞いてみるよ。最近変な奴もいて相談受けたけど、君なら大丈夫だろうし。何せ、未希ちゃん、めっちゃ忙しいから」
それはそれで甲賀にも意味が十分、分かる。何せ、ひょっとしたらこれから大女優になる可能性の高い有望な卵なのだ。
甲賀は少し取り乱した自分を整えるとコバやんに言った。
「是非、小林君。宜しく願う」
言って手をパンと叩いて頭を下げた。その様子を見ている真帆は、どこか阿保くさっと言いたげな表情だ。しかしコバやんは真帆の表情を気にすることなく甲賀の願いに――うん、と頷くと席を立った。
「じゃぁ、帰るよ」
「えっ、帰る?」
「丁度昼過ぎだし、とりあえず今日の補講も終わり、後はまた明日だから。それにさ、御腹空いたから、…ほら心斎橋に出来た『筋肉バーガー』で買い食いしながら、
此処で意外にも甲賀が鋭く反応した。
「え…?!四天王寺に?」
あまりの食い入り方に二人は少し驚いて同時に甲賀を見た。
真帆が驚きながら言う。
「何、隼人。あんた四天王寺に何かあるの?」
甲賀が眼鏡の奥で微笑む。
「えっ、いやさ、上海に居た時、向うの学校で日本の歴史を学ぶことがあって、――四天王寺ってアレだろ?『聖徳太子』って偉い人が建てたお寺何だろ?何でも中国から仏教を伝え、広めた古代の日本の政治家。中々向うでも人気があってね。俺さ是非一度、彼が建てた四天王寺に行ってみたいと思ってたんだ」
「あんたさ、さっき図書館に入った時、新しいことしか興味ないって言ってたやん」
少し呆れて真帆が言う。
「温故知新」
「えっ」
「違う?」
甲賀がニヤリとする。
「そりゃ…」
そこで甲賀が手を叩いた。
「そうだ、小林君。是非さ、俺を四天王寺に連れて行ってよ。今回君が西条さんと俺を繋いでくれるじゃない。是非『筋肉バーガー』俺に奢らせてくれよ、今回の成功報酬に」
「…あっ、でもまだ成功してるわけじゃ」
言い淀むコバやんに甲賀が言う。
「いやいや!!それはその時さ。俺さ、上海から来て一年しか経ってなくて、でも中々馴染めない中で最後の夏を迎えてさ。でも今日、なんかさ…、小林君に出会えて、何かすっげぇ仲良しになれそうなんだよ。だからそうした意味も込めて、是非に奢らせて欲しい」
甲賀の目がキラキラ輝いている。それを見ていると何故か、コバやんには普段彼が伝えきれない内面に隠し持つ寂しさを感じて首を縦に振ると、口元に微笑を浮かべて答えた。
「良し、行こう!!」
甲賀が言った瞬間、真帆が彼の腕を掴んで激しく揺らす。
「ねぇねぇ!!ちょっとぉ、隼人ぉ!!ウチにも『筋肉バーガー』奢りなさいよ!!残さず沢山食べてあげるからぁ!!」
激しく揺さぶられながら甲賀が笑いながら答える。
「ああ、分かった。わかったから、真帆。腕を激しく振るのを止めろ。皆の分、全部、俺が奢るから」
それを聞いて腕から手を離すとイヒヒと真帆が手を口元に当てて笑う。
「イェーイ。流石、お金持ち」
「こらっ。それを言うな、…まぁでも、事実だけど」
甲賀も真帆に釣られて笑う。それを見てまた三人が一斉に顔を合わせて笑った。
「じゃぁ、行こうよ。
甲賀が真帆に言う。
「それは。あかん、
「えっ!!」
コバやんと甲賀が顔を見合わせる。
見合わせると二人同時に一言一句間違えることなく真帆に言った。
「かなり距離あるで!!」
言うと真帆は答えた。
「そんなん、知らんがな。頑張りや」
後は二人を見てイヒヒと笑いながら天鵞絨のファイルを手にして図書館のドアを開けると夏空の下、自転車置き場へ向かって跳ねるように歩いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます