1-10. 珍しく来客だと思ったらハーレム候補の魔王だった(3/3)

 プロミネンスは笑い飛ばした。


「はっはっは。ムツキは仮にそう言われているわけじゃ。魔人族や人族のような容姿を持ち、魔王と同等以上の力を有していると言われて、なお、どちらにも目立った味方をせぬ変人とな。まあ、妖精族の味方なんじゃろうけどな」


 プロミネンスは笑いを抑えて、面白そうに説明した。ムツキは少しばかりおどけたような仕草をする。


「いやいや、変人とは心外だな」


「なに、気にするな。ただ、変人と言われるだけの状態というだけじゃ」


 ムツキはさすがにおどけきれず、がっくりとした。


「……いや、それは気になるだろ、普通……」


「はっはっは。周りの評価など、実に適当なものじゃよ」


 プロミネンスは豪快に笑う。ムツキやケットもつられて笑うが、ナジュミネだけは不機嫌な表情を崩さない。


「樹海の偏屈魔王、ムツキよ。そなたは強いのか?」


 ナジュミネがそう問うと、ケットが自慢げに胸を張って口を開いた。


「ご主人は強いニャ! 最強ニャ!」


「そなたには聞いておらぬ!」


 突如、ナジュミネの周りから熱風が巻き起こる。炎の魔力の放出により、ログハウスの中から猫や犬たちが窓越しに状況を確認する。


「お、おい、ナジュミネ。急にどうしたんじゃ」


 プロミネンスもさすがにナジュミネのこの行動に困惑した表情をしている。


「……すごむなよ。ナジュミネさんの綺麗な顔が台無しだろ」


 ムツキはただただ率直に言い放った。


「……綺麗だの何だの、そんなことはこの場において、意味も関係もない。そして、関係のないそこの畜生が出しゃばったのだから、不快になって当然だろう」


 一瞬、ナジュミネの眉がピクリと動く。ムツキもまた眉根が動いた。


「畜生? かわいいモフモフと訂正して、態度を改めるなら今の内だぞ?」


 ムツキもまた軽く威圧を掛けた。


「っ」

「む……よいな」


 その威圧を受けたナジュミネとプロミネンスは思わずたじろいだ。ケットは即座にムツキの前に立った。


「ご主人、オイラは大丈夫ニャ! 気にしてニャいニャ!」


「畜生に畜生と言って、何が悪いのだ」


「おい、ナジュミネ! いい加減にしなさい。何を苛立っている」


 これ以上はまずいとプロミネンスは判断し、ナジュミネを諫めようとする。


「……少なくとも、俺はあんたよりは強いだろうな」


「……ほう。それは望ましいことだ。本当のことか、試させてもらおうか」


 プロミネンスは次の瞬間に片膝を屈して、頭を下げた。


「ナジュミネ! やめぬか! ムツキ、すまぬ。ナジュミネの非礼はわしが代わりに詫びよう。妖精王ケット・シー、此度の我が王の無礼をどうか許してほしい」


「もちろんニャ! 全然大丈夫ニャ!」


 ムツキもさすがにプロミネンスに頭を下げられた上に、ケットが許すと言った以上、怒りを収めるほかなかった。


「……プロミネンスさん。俺はプロミネンスさんのことは好きだし、正直、ナジュミネさんの容姿はめちゃくちゃ好きだが、どうもモフモフへの敬意や親愛が足りていない今の彼女は好きになれない。少なくとも、今日はお互いに虫の居所が悪くなったようだ。出直してもらいたい」


「あい、わかった」


 プロミネンスがナジュミネに引き下がるよう肩を掴んだが、彼女はそれを振り払って言葉を続ける。


「ならぬ。妾はここに戦いに来たのだ。強い男がいると聞いたからな」


「どういうことだ?」


 ムツキが質問すると、ナジュミネは少し黙った後に口を開いた。


「プロミネンスが言っていた通りだ。妾は自分の伴侶を探している。強い男をな。妾が生涯を捧ぐに相応しい伴侶を求めている。そのために魔王となり、強い者と戦ってきた。だが、結果は芳しくない。そして、風の便りで、そなたは強いと聞いた。だから、ここへ来たのだ。この機会を逸する気は毛頭ない。妾はそなたに一目で恋をした」


「……もしかして、俺と勝負するために、わざとけしかけていたのか?」


「……そうだ。本気のそなたと戦うためにここへ来たのだ!」


「モフモフは好きか?」


 ナジュミネは目の前のケットを見て小さく口を開く。


「可愛いとは思っている。そして、……撫でてみたいと思う」


「光栄ニャ」


 ムツキは、目の前の思ったよりも素直でただただ不器用な美女に思わず呆れ顔になった。


「そういうことか。だが、悪いが、今日はやっぱり気持ちが……」


「その勝負、私が審判するよ!」


「!」

「!」

「!」

「!」


 ムツキが言葉を発し始めたその時、クーに乗って青いフリフリのドレスで着飾ったユウが待っていましたと言わんばかりにログハウスの屋上から飛び降りて颯爽と現れた。

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