1-Ex1. モフモフに囲まれて安眠だと思っていたらなかなか寝付けなかった

「わん」


「ここかな? ここがいいのかな?」


「わぅん」


「そうか、そうか。ここがいいのか」


 ヨークシャーテリアのような仔犬が嬉しそうにしている。それ以上に、ムツキがとても嬉しそうに撫で回している。


「ご主人。そろそろ寝た方がいいニャ」


 夜もすっかり遅くなった頃、すべての片付けや進捗を確認し終わったケットがソファでおモフに興じているムツキに声を掛けた。


「毎日でも飽きない。モフモフってすごいよな」


 ムツキは時間も忘れて数匹を撫で回していた。妖精たちは彼に撫でられ続けると、彼の手を通して彼の魔力を少し吸収して元気になれる。そのため、ムツキにとっても、妖精たちにとっても、このおモフという行為がウィンウィンになる。


「それはオイラのセリフですニャ。一日たりとも、おモフを忘れニャいのはすごいニャ。ファッ。ニャ~。温かいニャ」


 ムツキはそう言うケットの頭を撫で回し始める。ケットは気持ち良さそうな鳴き声を上げてしばらくなされるがままに立ち尽くしていた。


「いつもありがとうな」


「光栄ニャ~」


 ケットは他の妖精よりも魔力の吸収を得意としているので、すぐに毛並みが艶々になる。今にも輝かんばかりの美しさになる。


「我おモフ、故に我あり」


「よく分からニャいですが、相当ニャのですニャ~」


「あー、このまま、ソファで皆と寝たいニャ」


「ご主人、オイラの語尾が移っていますニャ」


 しばらくの間、ケットはミイラ取りがミイラになる状態で一緒に寛いでいた。すると、痺れを切らしたかのように、クーがのそのそと近づいていく。


「主様。ベッドで寝るのが大事。睡眠は明日への活力。寝ろ」


 クーは、ケットに比べると覚えている言葉の量が少なく、敬語への変換も苦手なので若干つっけんどんな感じになるが、誰よりも周りを思うことができる優しい妖精である。


「そうだな。とても名残惜しいけど、皆にも悪いからな」


 ムツキは決めたら行動が早い。すっくと立ち上がって、部屋に向かう。


「マイロード。ベッドメイキングは完了している」


「ありがとう、アル。さて、今日はクーも一緒に寝るか」


「わかった。この身は主様の暖となろう」


 ベッドには既に何匹かの仔猫や仔犬たちが寝そべっていた。


 要添い寝の呪い。一人で寝ることができず、必ず誰かと添い寝しないと寝られない呪い。よく分からない呪いである。いや、ユウが添い寝をしたかっただけである。


 今はムツキが恥ずかしがって、ユウと添い寝をあまりしたがらない。ただし、定期的に夜の営みはある。


「おやすみ、皆」


「にゃ」

「ばう」


 こうして、明かりが消えた後、ムツキは眠りに着こうとする。しかし、先に寝付いた仔犬や仔猫たちが彼の寝返りなどを妨げるような位置に陣取ってしまった。


「潰してしまわないか、心配だ」


 ムツキは結局、それが心配で熟睡できず、しばらくしてアルが仔犬や仔猫の位置を動かすまでの間、モフモフの暖と匂いを堪能していた。

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