Ⅰ巻 第貳章 条件と隠し事 5P

ランディは自分の事情。特にこと発端やこれまでは王都にいたこと、町へ来た理由などを丁寧に説明し、『Chanter』に移住させて欲しいと願い出た。




「そしてレザンさんを始めとして昨日、この町の回り、温かさを見たことにより決意が固まりました。是非とも俺を町民にして下さい」




 話の終わりは此処を目指していた時に決めた理由とは離れても自分が持つ思いの丈を全てぶつけたラン ディが不安そうにソファーの上で悶々としながらブランの反応を待つ。『まずいな……』と心の中で漏らすレザンは先ほどから悪い予感がしている。ランディのブランに対する印象は良いものだった。




 何故ならランディの話を終始、目をきらきらさせて身を乗り出しながら聞いていたからだ。だからと言って必ずしも正しい答えを導き出すことはない。ブランの顔は今や、面白そうな物を見つけた顔をしている。これは悪い兆候で何かやらかす自信がレザンにはあった。問題のブランは考えるように右手で綺麗に剃られた顎を撫でた後、口を開く。




「君の思いはとても伝わったよ。でもこの町に住むことなら僕に許可を取る必要はないんだ」




「ほへぇ?」




 ブランの思わぬカミングアウトにランディは肩透かしを食らい、ぽかんとする。




「確かに表向きは一応、そうなっているけど。なにせ、この町の住人は減って来ているからね、よっぽど変な人じゃなきゃ誰でも歓迎なのさ」




 レザンは内心ほっとしていた。ぱっとした物は思いつかなかったらしい。




「本当ですか!」




 ランディは一歩遅れて嬉しそうに大きく身を乗り出して目の前に手をつき、嬉しそうに確認する。これほど上手く行くとは思っていなかったのでランディの反応は当然だった。




「うん、さっきまでそう思ってた」




「そうですか! それじゃあ、これから宜しく……うん、さっきまで?」




 やはり、世の中は上手く行かないものだ。




「いや、ランディ君。最初はそうでもなかったのだけどね、でも君と話をしていると段々意地悪……いや、興味深い人間に見えて来たんだ」と悪魔はランディを逃がさないよう回り込む。




「いや、俺は本当に詰まらない馬鹿ですよ」




 ランディが冷や汗をかきながらもゆっくりと言葉で後ずさる。




「謙遜しなくて良いんだよ! ランディ、君はさっきの話でどんなことでも熱意を持って出来ると証明してくれた素晴らしい人材だ。だからこのままこの町の住人として迎えるのはあまりにも勿体なさ過ぎるね」




 そして悪魔ブランはある提案をして来た。




「何かゲームをしようか?」




 悪寒がして震えるランディ、レザンは頭を抱えた。恐れていたことが現実となったのだ。




「それじゃあまずは期限。取り敢えず、五の月いっぱいまでね。それで課題は――――」




「待ってください! それ本当にやらないと駄目ですか……」




 話をするブランにランディはおずおずと待ったを掛けた。状況をひっくり返すのは今しかない。




「うん、町長命令だよ。町長命令って凄くてね、誰にも拒否権がないんだ」




 残念ながら目論見は失敗。嫌なら止めようの一言もなかった。




 その上、町長命令に凄まじい効力があることを直に経験したランディ。




 ただ一言、ランディの代わりに言ってやるなら『こんなことで知りたくはなかった!』だろう。




「でもね。詰まんないなら、詰まんないで別に追い出していたからある意味、君は幸運だよ?」




「言っていることが全然違いますよ!」




「ランディ、諦めなさい。奴は一回言い出すともう駄目なんだ」




 焦り顔で問い詰めるランディとそんな些細なことはどうでも良いと言うブラン。




 レザンが諦め顔でランディを諭す。




「無駄な抵抗はもうそれくらいで良いかい? 課題というのは『君が関わった面白い話を四個作って町の話題になること』だ。期待しているから頑張ってくれたまえランディ君!」




 微妙な課題を出されたランディは渋い顔。




「分かりました、その課題かならず合格して見せます!」




 此処まで来て今更、引き下がることは出来ない。やれるだけやって見るのも悪くない筈だ。




 捨て鉢になったが、ランディには何が何でも課題をクリアしてやろうと言う決意があった。




「因みに昨日のフルール君とのデートはなしだよ。自慢話は僕が面白くないからね」




 話が一段落し、セリユーが出した紅茶を飲みながらブランは言う。町の絶対的な権力者、町長は何でも知っているらしい。ランディも一息を吐こうとカップを傾けていたのだがカップの中で紅茶を吹いた。決意して早々に出鼻を挫かれてしまう。




「デッ、デートじゃないです! 町案内です!」




 昨日の雰囲気はデートではなかったが他人にはそう見えなかったのだろう。




「さっきは簡単にお話しただけでフルールの名前は出していない筈。何故、御存じなんですか?」




 そう、確かにランディは町を回ったと簡単に話しただけでフルールの名前まで出していなかった。不思議に思った疑問をそのままブランへぶつけるランディ。




「今しがた、君が話してくれた町を回り、温かさを見たと言う言葉と町の人たちが話していた『フルール、謎の青年とデート』の噂を照らし合わせれば簡単だよ」




 座り疲れたブランは背伸びをしながらランディの質問に答える。




「はあ、そうでしたか……うん? 今、噂って聞こえたのですけど、どう言うことですか?」




 更なる疑問が、此処に来てまた浮上。




「運悪く、出くわさなかったけど。君たちかなり騒いでいたらしいからね」




「そこまで騒いだと言う自覚はないのですが、それなりに……」




「僕はセリユーから聞いたけど町は朝からその話で持ち切りらしいよ。多分、フルール君は今頃、質問攻めにあっているさ」




「私は朝、食糧を買いに町の方まで行くのですが、目撃者も沢山いるようで今日は行く先々でお話を聞かされましたよ」と補足するようにセリユーが説明をしてくれた。




 愉快そうなブランと苦笑いのセリユー。ランディは黙るしかない。




「後、もう一つだけ聞いて良いかな? これは重要なことだ。そう、最重要案件と言っても過言ではないよ」




 真面目な顔でブランはランディに問い掛けて来た。




「なっ、何ですか……」




 重要なことと言う言葉に釣られ、ランディはブランに顔を向ける。再び、空気に緊張が走った。




「いやね……僕、個人としては町案内にシチュエーション整えてプレゼントをすることは必要ないと思うのだけど、そこの所どうなの?」




「町案内の御礼です! 御・礼!」




 そんな風にランディがブランにからかわれていると上の階からいきなり忙しない音が聞こえて来た。何かあったのかなと話しの途中だがランディは音の原因が気になり、聞き耳を立てる。




「まずいな……何か僕、約束していたっけ?」




「確か、『勉強を見て』とのお約束をされておりませんでしたか?」




「そうだった、そうだった!」




 セリユーとブランは話を始める。どうやら面倒事らしい。




「あの子たちか」




「はい、目に入れても痛くはないのですけど毎日、元気が良くて困ったものです」




「子供とはそう言うものだ、親の苦労を存分に味わえ」




「はははっ! 全くもって返す言葉もありませんよ」




 レザンも音の原因が分かっているらしく、皮肉を言う。レザンの皮肉にブランは笑うだけ。




 そうこうしている間にも騒がしい音はどんどん近くなって行き、何故か、この部屋の前で消えた。部屋の中にいた全員が扉を注視する。一瞬の静寂の後、大きな音と共に扉が開き、金髪の娘が二人、部屋に雪崩れ込んで来た。




 いきなりのことで驚いたランディ。だが他の三人は落ち着いていた。音が聞こえた時点でなんとなく彼女たちが来るということが分かっていたのだ。女の子たちの年は十代前半、双子のようで髪型と服装は違うものの、顔は殆ど瓜二つ。一人はポニーテールに小さめの長袖上に赤いジャケットを羽織っており、七分丈のズボンに白の靴下と茶色の革靴。強気な目に小さい鼻、むっとしている口。女性らしさは欠片もなく、活発そうな子でどちらかと言うと家の中で大人しくしているよりも外で走り回っている方が似合う。もう一人は健康骨までの垂らした真っ直ぐの長い髪、紺色のエプロンドレスに黒い肩掛け、長いタイツにお揃いの皮靴。逆に外にいるよりも、中で大人しく本を読んでいることが似あっているだろう。

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