第24話 早口言葉

 蜂のモンスター、キラーホーネット。

 体長数十センチにもおよび、その針にさされると並みの人間なら昏倒してしまうほどの毒を持つ。

 だけど、モンスターとしての等級はAで、一匹一匹はそんなに強くはない。とはいえ、それがなん十匹も群れでやってくるとなると、油断していい相手ではなかった。

 そいつらが俺たちに向かって飛んでくる。


 ……なんだかんだいっても、俺と紗哩シャーリーはそこそこの探索経験があるA級(俺は元A級)探索者だ。

 だけど、みっしーはそうじゃない、登録だけしていたD級のペーパー探索者。

 戦闘の勘所を身に着けているとは言えなかった。


「雷鳴よとどろけ! いかづちの力を解放せよ! サンダー!」


 稲妻の杖をふるって魔法を発動させるみっしー。

 でも、タイミングがちょっと早い。

 もう少し引き付けてからの方がいいんだけど。

 雷の魔法は蜂のモンスター、キラーホーネットに届く前に範囲外になって掻き消えてしまった。

 まあ仕方がない。

 こういうのも経験が必要だ。


「みっしー、もう一度だ。とにかく連発してくれ」

「うん」


 そして俺と紗哩シャーリーも魔法の詠唱をはじめる。

 紗哩シャーリーはおもに治癒魔法専門だし、俺も魔法戦士であるサムライ職ではあるけど、正直魔法はそんなに得意じゃない。

 だが、マネーインジェクションの力でA級モンスターをやっつけるくらいのことはできる。


「空気よ踊れ、風となって踊れ、敵の血液とともに踊れ! 空刃ウインドエッジ!!」


 紗哩シャーリーが風魔法を唱える。

 空気がカッターのような切れ味を持つ刃に変わり、キラーホーネットたちを切り刻む。


「燃え上がれ、焼き焦がせよ! ファイヤー!」


 俺の魔法で小さな火球がキラーホーネットを包み込む、焼き殺す。


「雷鳴よとどろけ! いかづちの力を解放せよ! サンダー!」


 うん、よしよし、今度はみっしーの魔法もキラーホーネットに命中している。

 これで難なくキラーホーネットの群れを倒せそうだ、そう思ったとき。


「お兄ちゃん、向こうからも!」


 見ると、おぞましいほど巨大な昆虫――口に出したくもないが、いわゆるゴキがこちらへと近づいてくる。


「ひゃーーーーーっ」


 みっしーの悲痛な悲鳴。

 虫が嫌いだっていってたもんな……。


「大丈夫だ、おちついてやっつけるぞ……」


 いった直後に、俺たちのいる地面がもこっと盛り上がった。

 なにかと思った直後、そこから頭を出したのは、これもまた巨大な、緑色の芋虫。体長数メートルはあるんじゃないだろうか。


「ひゃーーーーーーーーーーーーっ!!」


 ほんとに虫が苦手らしいみっしーが、目から涙をぴゅっと出してまた悲鳴。

 っていうか、幼虫である芋虫がいるってことはさー。


 ほらきた。


 向こうから巨大な蛾のモンスターが……バッサバッサ鱗粉を振りまきながら……。


「ふっひゃーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」


 さらにさらに今度は巨大なカマキリがその斧を振り回しながらこちらにのっしのしと歩いてきて……。

 なんだここは。

 虫の楽園か?


〈キモい〉

〈まじキモい〉

〈気持ち悪い〉

〈おぞましすぎるだろこの階層〉

 

 コメントもキモいの大合唱。

 みっしーはものすごい泣き顔で片手で俺にしがみつき、もう片手で稲妻の杖を振りかざした。


「雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダー雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダー雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダー来ないで来ないで雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダー雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダー雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダーひゃーーーっ助けてーー雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダー雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダー雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダー雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダーきたきた来んなバカぁ雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダー雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダー雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダーひーーーん雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダー雷鳴よとどろけいかづちの力を解放せよサンダー!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 あまりに虫が嫌いなのか、顔を涙でぐちゃぐちゃにして泣きじゃくりながら稲妻の杖を振り続けるみっしー。


 いや早口言葉じゃないからこれ。


 しかし、こんなんでもちゃんと魔法が発動しているのが稲妻の杖のすごいところだ。

 正直いって、この性能で450万円って安いと思う。

 稲妻の魔法発動で起きた電気を交流に変えて蓄えることまでできるんだぜ……。発電機能付きモバイルバッテリーにもなるのだ、みっしーはいい買い物したなあ。


 とかいっているうちに俺たちの半径15メートルほどは焼け焦げた焼け野原になってしまった。

 もちろんみっしーの稲妻の杖の連発でこうなったのだ。

 あちこちに虫のモンスターの焼死体が転がっている。


「これだけで多分みっしー、A級認定されるよ……」


 ぼそっと紗哩がいった。

 うん、俺も同感だわ。


「ひーーーーーん、怖かったよ〜〜〜〜」


 まだぷるぷる震えているみっしー。

 これはこれで戦力になるじゃん。


 

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