第19話 殺人者は鉄道会社?(3)

「あ、呼ばれた。四十八願からだ。あ、しまった、来年夏の鉄道模型展示の打ち合わせがあるんだった。行かなきゃ」

「具合悪いのに?」

「1年間これのために全部つぎ込んでるからね。これは別なんだ」

「そうなのかな」


 四十八願たちがいるいつもの子ども食堂を兼ねた建売住宅、いい加減名前を覚えようと佐々木は思って今一度見ると、小さく「マジックパッシュ」と書かれていた。

「ここの建物の名前はビールの名前をつけてある。オーストラリア産のサワーエール。トロピカルフルーツ味のビール」

 鷺沢が説明した。

「鷺沢さん、今年のうちのチームの展示の売りはどうします?」

「ただの自動運転じゃもう他所のチームとは差がつかないからなあ」

 鷺沢はさっきまであんなに苦しそうにしていたのに、鉄道模型の話になるといきなり回復していきいきと話している。それに思わず佐々木は白けてしまった。なんだ元気じゃん……。

「やっぱりUTL(上野東京ライン)やSSL(湘南新宿ライン)みたいな15連の長大編成がひっきりなしに行き交う姿で圧倒しませんか」

「模型でも15連は重たいからなあ。勾配作ると登れないかも」

「それなら勾配なしのレールプラン作ればいいんですよ」

「そりゃそうだけど、それはそれで設計が難しい」

 佐々木には何の話だかさっぱりわからない。かといって説明してもらおうにもめんどくさそうだ。というわけで佐々木は自分のケータイでタイムラインを見ることにした。

 あいも変わらず撮り鉄と撮り鉄擁護のアカウントのSNS喧嘩が続いている。でもその様子を見ると、今こうやって模型展示にむけて打ち合わせ、夢いっぱいの展示をしようとする姿とは落差が大きい。やっぱり同じ鉄道ファンでもいろいろ違うのだろう。

 だがそう思ったその時、佐々木の目にとある投稿が止まった。

「え、ガムテープさんを恩人だと思ってる子がいるの?」

 思わずそうつぶやくと「なんですって?」と鷺沢と四十八願が揃って声を上げた。

「だって、あのガムテープだよ? 札付きのクズテツで有名じゃない」

「そうですそうです。マイカー移動をするようになったのもそこまで散々キセル、不正乗車の常習犯で鉄道会社から出禁になってたからって聞きますし」

 二人は不審がる。

「佐々木さん、そのアカウントにちょっと話聞きだしてくれますか」

「なんで私が」

「だって僕ら鉄道模型のアカウントちゃんと運用してて、作品とかアップして小さくバズったりしてすぐ本人バレしちゃうから迂闊に聞けないですもん。佐々木さんのアカウントはどうせろくに運用してない無名アカウントですよね。こういうときに話を引き出すのにちょうどいいですよ」

「なんかめちゃくちゃ失礼なこと言われてる気が」

 佐々木は軽くイラッとしたが、それを二人で横目でみられて、仕方なくケータイをフリック操作してその電車がアイコンになっている擁護アカウント、LTDEXP257に@を飛ばして話を聞き始めた。


BladeSSK「@LTDEXP257 ガムテープさんってそんないい人だったんですか?」

LTDEXP257「みんなはひどい人だって言うけど、そんなことないですよ!」

BladeSSK「どうして?」

LTDEXP257「だって、ぼくはあのひとに出会わなかったら、撮り鉄にならなかった」

****「ならなかったほうがよかったんじゃねえの」

 脇から別のアカウントが介入してきた。

BladeSSK「ごめん、こっちをフォローしてくれない? DMで続きのお話聞きたい」

LTDEXP257「それは困るよ。学校の先生にそういうの危ないからだめって言われてて」

 こっちは刑事なんだから全く問題ないんだけど、と書こうとしてそれができないことに気づいた。なんとももどかしい。しかたなく脇から入ってきたアカウントをブロックして続けることにした。

BladeSSK「どういう事があったか、教えてくれる?」

LTDEXP257「あのひと、カメラを貸してくれたんです。いっぱいカメラ持ってるから、一つ貸してくれない?って言ったら、貸してくれたんです。そして撮り方も教えてくれて。カメラの構え方とかも」


「そんなことしたの? なんか聞いてるガムテープの噂とは全く違うじゃないか」

「そうね。どうもうまく繋がらない」


LTDEXP257「それで色々いっしょに撮って。最後SDカード取り出して中身をぼくのケータイに移して『これからは自分のカメラ手に入れてがんばれよ』って言ってくれたんです。そんな人がみんながいう酷い撮り鉄だなんて思えない」


「そりゃそうだよなあ」

 鷺沢はうなずいている。

「このLTDEXP257ってアカウントの子、特定してもうちょっと聞きたいところね。どうもガムテープ、思ったより複雑な人物っぽい」

「でもどうやって特定する?」

「DMも無理だから聞いても教えてくれないわよね……こまったなあ」

 その時、四十八願がにやりと笑った。

「特定しましょうか」

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