P.143
見覚えの有る字面。しかしてそのサイトトップはかつて和輝が見た超絶シンプルなものとは全く違う姿へ変貌を遂げていた。
真っ白なだけだった背景は古びた校舎のような建物が映っている画像に差し変わっており、画像自体が半透明になっている。『教室』『掲示物』『職員室』と書かれた文字は全てリンクになっており、以前と比べるとよりサイトらしさが増していた。
感心した様子で和輝はまひろに訊ねる。
「これ……あの時のサイトですか?」
まひろの顔を見てみると、自信と緊張が混じったような微妙な笑顔になっていた。
「そう。まぁ……やってくれたのは御堂君なんだけどね。彼がこういうデザインが得意だなんて意外だったわ」
切っ掛けは、最初にサークルでサイトを見た後だったと言う。
あの淡泊なサイトに何かの疼きを感じたのか、それとも単に女子から尊敬されたかったのかは定かではないが、サイトの改変を瞬は申し入れた。
依頼の頃からチクチクチマチマ、この一週間を掛けて徐々に改善されていった研究会のサイトは、和輝の知らぬ間にめでたく完成したという訳だ。
「全部フリーサイトから引っ張ってきたんだけどな。ま、これくらい朝飯前ってワケよ!」
「……で、どう?」
「どう……って」
サイトの感想を求められているのか。そう気付きはしたが、反応には困る。
比べれば一目瞭然に変わっている。だからと言って特別感が有るかと言われればそういう事はない。
無難にはなったかな、というのが正直なところだった。
「……まぁ、前に比べるとだいぶそれっぽくはなりました……よね」
無難には無難を。嘘も吐きたくなかったので、和輝は精一杯の賛辞を込めてその感想を出した。
期待通りの言葉ではなかったかも、というのは杞憂だったようだ。瞬は拳を握り締めて喜んでいるし、まひろの顔からは緊張の部分が消えて彼女にしては珍しい満面の笑顔に変わっている。
「……っし! これからどんどん追加してくから宜しくな!」
「宜しくな、って……今のところ中身はどうなってんだよ。何のサイトなんだ、結局」
「あ、そうだ、それそれ。一応身近な場所から全国に渡ってのホラースポットの紹介とか、体験談の記事とか投稿する予定なんだけどさ……今は記事一つしかねぇんだよな。多分それの事言ってんでしょ? まひろさん」
そう言いながら、瞬は『教室』のリンク文字をタップした。
そうすると出て来る『非公開です』の非常な文字。
「……あ、そう言えばさっきまで編集してたからロック掛けてんだった。ちょっと待ってろ!」
何とも締まらないな。そう和輝が呆れた視線を送ると、待ち時間の隙間に優弥の声が差し込んだ。
「……和輝。さっき、鈴鳥さんの名前が出たから……ついでって訳じゃないんだが」
「……鈴鳥さん? どうかしたのか?」
「いや……俺達が倒れたあの後、何があったかもう聞いたか?」
訊かれて、和輝は記憶を遡る。
『その箱を、壊して!!』
あの鈴鳥紗枝の言葉を最後に、和輝の意識は苦しさが限界に達して途切れてしまった。
気付いた時には病院のベッドの上。傍には夏樹が立っており、消毒液と花の香りが混じった匂いで目が覚めたのは覚えている。
「今日、俺が来たのはそれを教えとこうと思ってな」
「あー、それねー。もう、あの時大変だったんだから!」
舞が心配そうに怒っているのも無理はない。
籠飼の家からカミーラに駆けつけてみれば、和輝と優弥の二人は意識を失って倒れており、夏樹は半泣きになりながら和輝と優弥をゆすっている。
鈴鳥は目の前の光景を歯を震わせながら泣いて固まっており会話どころではなかったし、籠飼に至っては膝から崩れ落ちた状態で呆然自失と天井を仰いでいた。
五人中四人がまともに話せる状態ではなかったのだ。
「箱が壊れる音がした途端でした!」
唯一正気を保って現場を見ていた夏樹はそう語る。
籠飼は箱が破壊されると同時に、糸が切れたように一切の抵抗を止めたそうだ。
彼から出ていた青白い腕は煙のように消えて無くなり、後に残されたのはただ呼吸を繰り返す籠飼翔のみ。
カミーラの店長が慌てて警察と救急車を呼んではいたものの、誰が何をしたという証拠が残っていない。
防犯カメラを確認しても和輝と優弥が勝手に苦しみだしてその場に倒れた様にしか見えず、周囲の客を含めた証言からでも言い争いをしていたという以外には霊の事を視ていた人間は居なかった。それはそうだ。
結局、倒れた原因は熱中症という事になっているらしいが、場所が場所なので食中毒の可能性も有るとして調べられている。それでも原因の特定にはならなかった。
「……店には、だいぶ迷惑掛けちゃったな」
「あぁ、カミーラの事か?」
優弥は、あっけらかんと言葉を繰り出す。
「気にすんな。あそこは元々そういう場所だ」
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