第18話 要請
夕ご飯を食べながら、
まさかサブクエストで主軸となる
スッキリした気分でログインを果たした僕を、少年が迎えてくれた。
老人と女性を、
にしてもらおう。
「すみません。休憩がてら状況を整理していました。今後の行動方針をお話しします」
何か言いたげな少年だが、まずは用件は伝えておこう。
「
「なので、島の中央にある学校に拠点を作り、生存者を救助します。ここまではよろしいですか?」
「待ってくれ。そもそも俺がそれを聞いてどうするんだよ?」
不思議なことを聞くNPCだ。ゾンビゲー以前に、ゲームのお約束を何も分かっていない。
「君に、協力を依頼するからです」
「はぁっ!? そう言うのは警察や大人の仕事だろ? 俺はただの小学生だぞ」
「最もな意見ですが、警察や大人は現状役に立ちません。理由を説明します」
前提知識であるトルネンブラッドの特性と赤霧、ゾンビ化について解説する。
「……余計に俺が手を貸す話じゃないよな? 軍隊とか国が動くレベルだぞ」
「
僕は
「交番だけではなく、島全体が赤霧に覆われ、ゾンビ化しています。屋外に出ていた者は例外なくゾンビ化し、屋内にも感染が拡大中です」
「こ、こんな数のゾンビ…無理じゃん」
「ゾンビではなく、生存者が厄介です。ゾンビ同士は攻撃しませんが、生存者はゾンビを殺してしまう危険性があります」
ゾンビはしばらく放置でいい。腐敗が進むのは数日先の話で、動いているなら死亡判定ではない。時間はかかるが、島全体を一気に浄化する手立てもある。
だが、生存者は早めに保護しないと、手遅れになる。
「ゾンビは魔獣ではありません。なので人でも簡単に殺せてしまいます。死者は、僕でも治療は不可能です」
最も警戒するべきは、生きた人間なのだ。ゾンビゲームのお約束である。
「なぁ、その話だと俺がゾンビ化していないのはおかしくねぇか? 俺、外にいたんだけど」
「ああ、それが君に協力を要請する理由です。異世界で僕がご馳走を振る舞ったことを覚えていますか?」
「……あ、ああ」
「あれには膨大な魔力が含まれているので、食べた者の状態異常を防いでくれます。君は赤霧でゾンビ化せず活動できる数少ない現地人です」
僕は少年へと手を差し伸べる。
「僕は島の事情に疎く、現地の実態を知る人の協力が必要です。……
少年はしばし悩んだ後、僕の手をとり立ち上がる。
「やるよ。俺、この島好きだし、親戚や仲のいい奴もいる」
「ええ、よろしくお願いします」
地元のNPCとの協力は、必須だと僕のゲーム脳が騒いでいたので、説得が成功して一安心する。追加で頼りになる大人のNPCもいれば完璧だ。
「
真っ直ぐな言葉で返す少年を、知っている気がした。
その名前を何度も呼んだ覚えがある。とても大切な言葉を交わしたはずだと、心が訴えてくるようだった。だけど、いくら記憶を遡っても、想いは霞となって飛散していく。
名前の響きがポルカと似ていたので、勘違いしたのだろうと、深くは考えないことにした。
⭐︎⭐︎⭐︎郷田 勝
『ねぇ、郷田さん。私たちの自宅待機はいつ解除されるんですか? もう2週間は過ぎてますよ』
電話ごしで不機嫌オーラを放ってくる部下に、俺は溜め息をつく。
「さぁな。上の動きは知らないが、俺たちの扱いに困っているのは確かだろう」
自宅の窓から見下ろすと、これ見よがしに自動車が止められ、監視の目を光らせていた。この電話も盗聴されていると考えた方がいいだろう。
『私は! 栞さんが心配なんですよ! プラナちゃんとあんな別れ方して……最後は笑ってプラナちゃんと隠れんぼしているとか言い出すし……絶対あれ、ヤバいやつですよ』
栞さんが救急隊に運ばれたその後を知らない。ただ、何時間も子供の名前を呼び、探し回った挙句、俺たちに一緒に探してくれと懇願した言葉が思い出される。
『ここに…さっきまでここにいたんです! 私が目を離したらいなくなって! ああ…どうしよう。怪我しているんです!! 腕が…腕が千切れて、それで、たくさん血も出て、あの子は手を伸ばして……でも、私はその手を掴めなくて! 早く助けてあげないと!!』
これ以上はマズイと判断した救助隊が、取り押さえる形で搬送されるまで彼女は探し続けていた。
「とにかく今、俺たちは下手に動かず、現場復帰に努めるしかない。自衛隊を追われれば、プラナとの繋がりもなくなるからな」
そう通話を締めくくろうとした時、テレビから既視感のある映像が飛び込んできた。
『郷田さん……テレビ、見てますか?』
「ああ、遂に2度目が発生したか」
テレビでは離島が赤黒い霧に覆われた、映像が映し出されていた。リポーターが見えない壁があり、離島には近寄れないと騒ぎ立てている。
間違いなく、異世界絡みの災害発生だった。
「乃楽、あそこにプラナがいる可能性は高いが、自宅から飛び出すなよ。監視に取り押さえられるだけだ」
『でも、じっとしてるだけなんて』
「訓練でも最悪を想定し、攻め込まず待機なんてザラにあるだろ」
『そんな時は、大体攻め込んでたら勝てたと後悔するんですよ!』
いや、そういう時もあるけどさ。
【ちょうどよかったです。2人ともこちらの状況は大体把握されているようですね】
「だから、把握とかの以前にだなぁ……は?」
『え、誰? 郷田さん、通話に割り込まれてません?』
【お久しぶりです。
唐突なプラナの接触に、俺は返す言葉を失った。乃楽も同じらしく、沈黙が続く。
【ご存知の通り、
『すまない。少し混乱していてな。つまり……俺たちは何をすればいい?』
【今から『
プラナが言い終えると、目の前に亀裂が走り、空間に口を開く。その先は深海のような暗闇に星が瞬いている。何度見ても、本能的な恐怖を逆撫でする空間だった。
『郷田さん、私は行きますから!』
乃楽が宣言して、通話が途切れる。
「チクショウが! 行かないわけないだろうがああああ!」
俺はスマホをポケットに突っ込み、暗闇へと飛び込んだ。
⭐︎⭐︎⭐︎
亀裂を潜ると、寂れた体育館の中だった。
隣には既に乃楽が立っており、周囲の状況を確認している。
「郷田さん、乃楽さん。協力要請に答えて下さりありがとうございます」
弱々しい声でプラナが語りかけてきた。
見るとプラナは若い女性に抱っこされていた。メガネをかけた真面目そうな女性で、ラフなジャージ姿をしている。首には学校職員を示すネームプレートがぶら下がっていた。
「だ、誰ですか!? あなた方は!!」
プラナを庇うように隠し、警戒する女性。
虚空から現れた俺たちは、確かに誰やねんとなるだろう。しかし、俺たちも急展開の連続で混乱しているのだ。
「プラナ、状況を説明して欲しい」
「はい……全てをお話しします」
無表情ながらしょんぼりした様子で、プラナが自供を始めた。
⭐︎⭐︎⭐︎
意気揚々と学校に乗り込んだ僕と流華は、聖水無双で一瞬で校内を制圧した。流華に渡した護身用の水鉄砲と聖水剣が、活躍したのが意外だった。流華の想像を絶する奮闘で、予想より早くに
この学校にも生存者がおり、体育館に子供たちを集め、避難していた教職員が1人いた。
そう、現在僕を抱えている女性教師だ。
僕と流華がテンション高めに、学校攻略の武勇伝を語った所、予想外の反応を見せた。
褒められると思った僕たちを襲ったのは、優しい抱擁に『危ないことをしちゃ、もうダメよ』と諭す言葉だった。
なるほど。心配する大人NPCでしたか。
そう気づいた時には遅く、僕は捕縛されたまま説得をするハメとなった。
そして、僕が全部のゾンビをなんとかするから安心してね! と言い続ける事1時間。
僕を野に放たれないまま、無駄な時間を過ごすことになった。
力ずくで振り解くことも可能だが、加減を間違えば怪我をさせてしまう。こんなにも僕を心配してくれるNPCを傷つけるのも嫌なので、最終手段をとることにしたのだ。
郷田さん、乃楽さん、ヘルプミー。
⭐︎⭐︎⭐︎ 天本 栞
退院を告げられた私は、真っ先に地下シェルターへと足を運んだ。
平時は地下街であるその場所は、人の往来で溢れかえり、語の痕跡を見つけることはできなかった。
1日中探し回り、私は疲れ果て別荘へと帰って来た。リビングは荒れており、事件当時のままだった。片付けてしまうと、語の痕跡を決してしまうようで嫌だった。
「……語……何処にいるの?」
私が呟き、机に伏せって数刻した頃。
ピーンポーンとインターホンが鳴り響いた。
お客など、殆ど来ないと言うのに。もしかしたら、あの自衛官が語について、調べてくれていたのかもしれない。
期待を胸に玄関の扉を開け、絶句する。
「……ただいま、母さん。僕、帰ってきたよ」
語がそこに立っていた。
生きて、病院服で、いなくなった姿のままで。
気づくと体が動いて強く抱きしめていた。今度こそ神様が、語を連れて行ってしまいそうで怖かった。
「語……語なのよね? これ、夢じゃないわよね?」
「夢じゃないよ。母さん、これからはずっと一緒だから」
「あぁ……よかった。よかった…母さん、ずっと探してたのよ」
温かい。ちゃんといるんだ。悪夢は終わったんだ。
「ふふ……ごめんね。母さん」
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おっといけません。思わず笑ってしまいました。
玄関の鏡には歯を剥き出して笑う
偽りとはいえ、あの子はあんな下品な笑い方はしません。このログは削除対象ですねぇ。
ああ、我が子よ。安心してください。
地球での居場所さえなくなれば、きっと分かってくれるはずですよね?
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