Day22 賑わい
伯母からの手紙が寝室のサイドテーブルの上にあったことにようやく気づいたときには、もう表に救急車が到着していた。
宛先は私の名前になっていた。伯母の几帳面な文字が並んでいる。
『本日午前十時から大切な予定がありましたが、お伺いすることができなさそうです。先方にその旨お伝えください』
手紙は、いきなりそう始まっていた。伯母に何があったのかはわからない。でも、自らの死を予告するような内容が怖かった。
私は占い師としての伯母をよく知らない。よく当たるらしい、と母が言っていたことがあるけれど、占ってもらったことは一度もない。
「自分や身内のことはあんまり見たくないって、ねえさんが言うのよ。避けようのない不幸が見えたら辛いからって」
いつだったか母がそう言っていた。何も知らない私は、そういうものなのか、と納得するしかなかった。
伯母の手紙に書かれていた相手に電話をした後、母に後を託して病院の外に出た。歩きながら、伯母の手紙の内容を思い出す。
『あたしはこうやって死ぬ運命だったのでしょう。ですからあまり悲しまないで。それよりもあなたにやってもらいたいことがあります。あなたもすでに縁ができているのだから』
手紙に書かれていたとおり、私は伯母がつけていた数珠を持ち出した。
そして病院前の交差点に立つ。駅も近いから、なかなかの賑わいに満ちている。生活感のあるざわめきは、さっきまで触れていた死とはあまりに遠く思えた。
私は信号待ちをする人々の近くに立ち、人々の賑わいにじっと耳を澄ませた。
私には辻占の素質があると、伯母が言っていた。
本当だろうかと思いながら、耳を澄ませた。賑わい、ざわめきの中からするりと入ってくる言葉を探した。なかなか落ち着かない。頭の中で数をかぞえながら、いつのまにか数珠に触れていた。
いち、に、さん――
「たすけて」
耳元で女の声がした。
驚いてそちらを振り返ったが、信号待ちの中にそれらしい人物の姿はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます