Day10 ぽたぽた
友達が、もう何日も学校を休んでいる。
心配になってメッセージを送ると、『さびしいから顔を見て話したい』と言われた。ビデオ通話にすると、スマホの画面に映る彼女は、明らかに元気がなさそうな表情をしている。
「大丈夫? どうしたの?」
『ちょっとね、家から出られなくて』
「そんなに体調悪いの? 話してて平気?」
心配になって尋ねると、友達は青い顔で『うん』とうなずく。それから急に、
『うちで文鳥飼ってたでしょ、あの子死んじゃって』
とつぶやくように言った。
「えっ、そうなの? そっか……残念だったね」
私は以前こうやって画面越しに見た、文鳥のかわいらしい姿を思い出した。ついこの間まで元気そうだったのに、わからないものだ。友達はあの子をとてもかわいがっていたみたいだから、さぞ辛いだろう。
『ありがとう。悲しいけど、忙しいからしっかりしなきゃ』
「そう……? あのさ、よかったら私、そっち行こうか?」
『ううん――あっ、ごめん。ちょっと待って』
友達の姿が画面外に消える。少し待っていると戻って来て、『ごめん、お待たせ』と力なく笑った。
『うちの中、雨漏りしてるんだ。だから誰かが番してないといけなくって』
「雨漏り?」
思わず見上げた窓の外はよく晴れて、雨なんか一滴も降っていない。
「雨なんか降ってないけど……」
『うん。でもうちは降ってるの。あちこち漏れるからバケツとか置いとかなきゃだし、水が溜まったら捨てなきゃならないでしょ』
「えっ、ちょっと待って。どういうこと?」
そのとき、イヤホンをつけた耳に『ぽた』という音が届いた。ぽた、ぽた、と水滴が落ちるような微かな音が続く。
『ごめん、またちょっといい?』
友達が立ち上がって画面の外に消える。またすぐに戻って来て『ごめんごめん、新しいの置いてきた』と笑いかけてくる。
『もう一日中こんなんでさぁ、全然出かけられなくって』
と、諦めたようなため息をつく。
「あ、あのさ、本当に大丈夫?」
背筋に冷たいものを感じながらもそう尋ねてみた。友達は『うーん』と唇を尖らせる。
『やっぱうちに来てもらっていい? 手伝っ』
そのとき、画面の左上から女の顔が、まるでこちらを覗き込むみたいにぱっと映り込んだ。全然知らない、見覚えのない女だった。
「ひゃっ!」
思わず悲鳴を上げた次の瞬間、通話が切れた。
今、スマホを持ったまま迷っている。
かけ直すか、それともさっき言われたとおり、友達の家に向かうべきか。
もしくは、このまま何もしないか。
友達のことは気になるけれど、関わったら怖ろしい目に遭うような気がする。どうするのが一番いいのか決めることができないまま、時間だけが経っていく。
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