おまけ アンリ様……私、欲しいものがあるんです
冬のある晴れた日のこと──。
エリーヌは「ある用事」のためにアンリの部屋を訪れていた。
(今日は確か、アンリ様はお仕事がお休みって言ってたはず)
エリーヌは扉のドアノブに手をかけた。
が、その手をすっと引いて考え込む。
(でも、「あの事」を言ったら、嫌われちゃうかもしれない……)
彼女は部屋に入ろうかと思っては引いて、思っては引いてを繰り返した。
(いや、頑張って言ってみよう)
エリーヌは思い切って、扉を開いた。
「アンリ様、いらっしゃいますか?」
「ああ。大丈夫だよ、どうしたの?」
アンリは文献を読み込んでいたようで、その本から目を離してエリーヌに微笑んだ。
休みの日でも研究熱心な彼は、崩れ落ちそうなほど机に本を積み上げている。
顔をあげたアンリの元へ、エリーヌがゆっくりと近づいていく。
「どうしたの!? 具合が悪いの!?」
アンリが勢いよく立ち上がった。
どうやら珍しく背中を丸め気味にゆっくりと歩いて浮かない顔をしているエリーヌを心配したようだ。
あまりにも椅子から勢いよく立ち上がったもので、後ろにあった本棚にアンリの座っていた椅子がぶつかって本が落ちてきた。
「いたっ!」
「アンリ様っ!」
落ちてきた本が運悪くアンリの頭に直撃した。
エリーヌは急いで彼の元へ駆け寄って頭に触る。
「大丈夫ですか!? アンリ様!!」
「あ、ああ……大丈夫だよ」
そう言ってアンリは駆け寄ったエリーヌの頬に手をやった。
「あっ!!」
エリーヌはその瞬間身体を仰け反らせてアンリから距離を取る。
「え……」
あまりの避けようにアンリは驚いて動きが止まっている。
(しまった……! これでは、アンリ様に触れられるのが嫌で離れたみたいだわ……)
「アンリ様、ごめんな……」
「ごめんっ!!!」
「え……」
エリーヌが頭を下げた瞬間に、それ以上の勢いでアンリは謝罪した。
額が床につくのではないかというほどの低い姿勢で、アンリはひたすら申し訳なさそうにしている。
「ごめん!! 俺が悪かった! 心配してくれてるエリーヌの顔が可愛いなんて不謹慎なこと考えて触れてしまった! いや、いつものエリーヌが可愛くないとかそんなことなくてむしろ可愛いし綺麗だし、俺にはもったいないくらいの人なんだけど。今日は特に可愛いなとかドレス似合ってるなとかいろいろ考えて……その、許してください!!!」
アンリはどんどんと恥ずかしげもなく愛の言葉を囁いているが、本人に自覚はない──。
そんな風に自分への愛を真っ直ぐに伝えてくれるアンリに、エリーヌは呟く。
「……ぃですか?」
「え……?」
エリーヌは顔を赤くしてアンリから目を逸らして言う。
「その、実は最近食事が美味しくて食べ過ぎてしまいまして。えっと……ちょっと、体形を気にしていたのです。なので、その……お恥ずかしいのですが、薬草に詳しいアンリ様に体の不純物を取り除く様な……その、お薬がないか相談をしにきたのです」
その言葉を聞いてアンリはぽかんとしている。
(ああああああああーーーーー!!! やっぱり嫌われてしまったかしら。そうよね、やっぱりアンリ様も妻には綺麗ですらっとしていてほしいわよね……)
エリーヌの頭の中で、たくさん食べてしまった後悔や運動をさぼってしまっていた後悔が巡る。
すると、アンリは突然エリーヌを抱きしめた。
「え……?」
困惑するエリーヌにアンリが明るい顔で彼女に告げる。
「もう! 可愛すぎるっ!! 俺のために真剣に悩んでくれて、嬉しいよ。でも、俺はどんなエリーヌも好きだから」
「アンリ様っ……」
「だって女の子はふんわりしてて柔らかくて、もちっとした頬が可愛いじゃん! 少なくとも俺は好きだよ! あっ! でもエリーヌの体だったら、細身のすらりとした体形も少し柔らか多めの体もだいすきで……ぐほっ!!!」
エリーヌが近くにあったクッションでアンリの顔を殴った。
「変態です!!! もう、知りませんっ!!」
「あ、待ってっ! エリーヌっ!!!!」
エリーヌはすたすたと歩いて扉を閉めて背を預ける。
(もう、やっぱりアンリ様は変人というか変態というか……)
そこまで言って、エリーヌは自分の頬に手を当てた。
ちょっぴりその頬は熱くなっている。
(でも、あんな風に真っすぐに好きだなんて言われたら……許しちゃうじゃないですか……)
エリーヌは照れた顔を冷ますように、庭へと向かった──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます