閑話 DとRの密会②

 月の光が雲に隠れて見えなくなったその瞬間に、女は現れた。


「遅かったですね」

「ええ、今日は少しエリーヌ様が遅くまで起きていらしたので」

「そうですか、夕食は楽しそうにされていたとシェフから伺いましたが」

「珍しくアンリ様がワインを開けておりましたわ」

「ほお、確かにそれは珍しいですね。半年ぶりくらいでしょうか」

「エリーヌ様への想いが駄々洩れで、見ているこちらが恥ずかしくなるほどでしたが……」

「鈍感そうですからね、エリーヌ様は」

「ええ、いつアンリ様の想いが届くことやら」


 そうした話をしていると、月が雲から現れて二人の姿を映し出す。


「そういえば、エリーヌ様が壁の存在に気づかれました」

「──っ!! 中には……」

「入っておりません。ルイス様は彼女に少し興味を持っておいででしたが」

「お二人が顔を合わせるのも時間の問題かもしれませんね」

「そのためにはいくつかの障害がありますが」


 そんな話をしながら、男が胸元から封書を出して女に渡す。


「これは?」

「招待状です、第一王子からの」


 女がそれを受け取り宛名を見ると、エリーヌ宛になっていた。


「なぜエリーヌ様に?」

「わかりません。しかし、我々が勝手に開けることはできません。折を見てエリーヌ様にお渡しいただけますか?」

「かしこまりました」


 それでは、と言った様子で女が去ろうとすると、男が声をかけた。


「もう一つ、例の件は明日実行ということになりました」

「明日? いきなりですね」

「なにやら都合があるようでして、なんとかこちらはアンリ様を連れて行きますので、先にエリーヌ様をお願いできますか?」

「かしこまりました。馬車で先に向かいます」

「ええ、よろしく頼みました」


 女は男に向かって礼をすると、そのまま暗闇に消えていく。

 そうして男もまた仕事に戻っていった──

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