××End Episode××
真依は誕生日に現れたあの子の母親に苛立っていた。
まぁでもいつかは対峙するから。と気分を落ち着けドアノブを回す。
菜摘菜の母親は、やけにデカいキャリーバッグ引いていて。
強烈な違和感を感じつつも、部屋に上がってもらって話をつけることにする。
背を向けた瞬間のことだった。
ドッ。と重い何かが頭に当たり、頭蓋骨の内側からメリッという嫌な音を響かせる。
水の中に飛び込んだときのような鈍い耳鳴りが響き、視界が赤く染まる。
振り向こうとするも、もう手も足にも力が入らず――。
瞳に映った最後の映像は、菜摘菜ではなく振り上げられたハンマーのようなものだった。
「ナ…ツ……」
菜摘菜にの愛に答えることもできなかったことに涙を流して、真依の世界は終わりを迎えた。
それからどれほどの日が経過したのか、菜摘菜にとってはどうでもよかった。
あの日、帰宅した菜摘菜を待っていたのは赤黒い血だまりだけだった。
70回ほど電話したが繋がらず、震えが止まらなくて、夜中に吐きながら警察に電話して。
朝になって近くの川に捨てられたキャリーバッグが見つかり、バラバラにされた女性の死体が出てきたらしい。
うつろな目で見上げた菜摘菜の頭上には、無数の星々が煌めいていて。
――でも、全然綺麗だとは思えなかった。
もうこの世界のものすべて、星も、空も、人間も、甘いお菓子も。すべてが無価値だから。
菜摘菜は笑顔を浮かべ、本心からうれしそうに誰も居ない空間へと語りかける。
「手作りの料理食べると吐いちゃって、ごめんね。次は食べられるようになるから」
「最後まで一緒にお風呂に入れなかったけど、次は一緒に入ろうね。今度は恥ずかしがらないでよ。わたしも綺麗な身体を見せられると思うし」
「それでね、それでね。 ベッドで、夜も朝も昼になってもずーっと抱き合ってさ。キスして好きってささやきあってさ」
「あなたがあの日助けてくれて、短い間だったけど一緒に過ごせてうれしかった。
私を救ってくれた、たったひとりの人」
「大好き。愛してるよ。今から行くから、そっちでも歌を聴かせてね」
「約束してた一緒の世界、ふたりで見よう?」
主を失ったスマホからは、感情がこもり、安堵するような真依の歌声が流れていた。
〈やっと見つけた私の居場所。あなたがいる場所がホントの世界。にゃお〉
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