動き出す歯車 06 —そして、駆ける—






 ——『義足の剣士』リョウカ。


 その名を聞き、誠司は唸る。




 ——この場をお膳立てしたのは、グリム君ではなかった。なら、恐らく私を迎えに西へ向かってしまったのも納得のいく話だ。


 莉奈から、彼は『転移者』らしい、という話は聞いた。


 私や莉奈。それに私がこの世界で知り合った、今はブリクセンで暮らしている彼。加えてグリム君までこの世界に転移してきてしまっているのだ。


 今更転移者が別にいた所で、そこまでの驚きはない。


 ただ、リョウカという人物は私や莉奈を知っている。


 いや、それどころではない。何というかそれ以上の——彼は、未来を見通している様な異常さがある。


 莉奈は言っていた。彼はどうやら『届く』能力の使い手だと。


 もしかしたら彼の見つめるその先は、未来まで届いているのかもしれない——。





「——……もっしもーし、もっしもーし?」


 すっかり考え込んでしまっている誠司の目の前を、身を乗り出してブンブンと振られたサラの手が通過する。


 我に返った誠司は、慌てて眼鏡をかけ直した。


「いや、失礼。少し考えごとをしていた。それで……その、リョウカが?」


「うん、そうだよ。あなたに会合の内容を教えてくれって。だから待ってたんだー。セイジも協力してくれるんでしょ?」


 その何気ないサラの問いかけに、誠司は強く頷いた。


「ああ」


「んじゃ、今から説明するねー——」




 サラは語る。会合の内容を。


 元より聡明な娘だとの印象を誠司は抱いていたが、サラは淀みなく、事細やかに内容を説明してくれた。


 誠司は静かに聞き入る。


『厄災』ジョヴェディ討伐——その道は細い。だが、彼女らの立てた作戦の空白部分は、誠司が埋められそうだ。


 ——グリム君は、本当に私が来ることをアテにしていたんだな。


 その作戦の無言の意志を感じ取り、誠司の心が、魂が震える——。




 そしてサラは、会合の内容を語り終えた。


「——という訳で、『燕』さんは作戦決行日までジルの村で待機しているはずだよ」


「……なら、急げば間に合うな」


「……うん。ねえ、セイジ」


「どうした?」


 話に区切りのついたサラは、誠司を真っ直ぐに見据えた。


「あなたにはまた苦労をかけるけれど、リナを、ノクスを、みんなを宜しくね……」


 威厳のあった先ほどまでと違い、二十年程前の少女だった時のような表情で、サラは誠司にお願いをする。


 誠司は立ち上がり、サラの頭をポンと撫で、短く答えた。



「任せろ」



「……うん!」



 ——『英雄』が帰ってきた。



 莉奈から誠司は来ないと聞かされていてもなお、サラは信じていた。


 リョウカに言われたからではない。


 サラの英雄は、困っている人を放っておけない、どこかお人好しの『救国の英雄』なのだから。


 サラは退室しようとする誠司の背中に声をかけた。


「気をつけてねー! 戻ってこなかったら、不敬罪にするからー!」


 その声を受け、誠司は振り返ることなく右手を上げた。


「行ってくる」



 莉奈の居場所は分かった。ギルドへ寄る必要もないだろう。急げば決行日までに莉奈と合流出来る。


 誠司は娘と日記で連絡を取り合うため、『妖精の宿木』へと戻るのだった——。





 ——翌日。



 誠司が目を覚ますと——そこは平原に立つ木の下だった。


 ——おかしい。昨夜はライラに宿に待機してもらい、早朝に出発するはずだったが——。


 誠司は急いで傍らに置いてある日記をめくる。


 そこには——


 昨晩、誠司が日記に記した、彼が得た一連の情報。今後の予定。ライラに早朝に起こしてくれとの指示。


 その、『宿で待機しているように』との指示にはバッテンがされており——『早く、早く!』とライラの文字で書いてあった。


 そして、その後にビッシリと付け加え、書き込まれた、作戦の補足、質問。ライラが昨晩から今までに通ってきたルート。現在地。


 それ以外にもこの場所に簡易的な結界が張ってある旨、アオカゲの体調管理や近くの食料になりそうなものなど、ライラのメモも貼り付けられており、それは詳しく書いてあった。


(……立派になったんだな、ライラ)


 正直、娘には危ないことはして欲しくない。


 しかし、空間での邂逅を経て、ライラは誠司が思うよりもよっぽど強く、賢く、他人思いで、真っ直ぐな娘に成長していることが分かった。


「……行くぞ、ライラ。君の大好きな姉を迎えに」


 胸に手をあてた誠司のつぶやきが、風にさらわれ草原を流れる——。




 ——駆ける父、駆ける娘。




 このまま行けば、余裕を持って莉奈のいるジルの村へと着くだろう。




 ——そして迎える決戦予定日、前日。


 歯車は、まだ、噛み合っていない。


 そんな中——戦いの幕は唐突に切って落とされるのであった。






—————————————————————————


お読み頂きありがとうございます。


これにて第四章完。いよいよ次回第五章より、ジョヴェディ戦突入です。


引き続きお楽しみ頂けると幸いです。宜しくお願い致します。


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