『白い燕』待望論 06 —白い魔法の布—
無尽蔵の魔力——アルフさんの言う通り、最悪だ。
それに加え、『厄災』の力も持っているのだろう。全くもって、勝てる気がしない。
私がふらついてニーゼに支えられる中、グリムはメモを取り出し、何やら書き込みながらアルフさんに尋ねる。
「なるほどな。して、アルフ。魔力が無尽蔵なら、分身は何体でも作り出せるのか?」
おい、ずいぶんと前向きだな。まだやる気なの? 私なんて心ポッキポキなのに。
グリムの問いに、アルフさんは考え込む。
「……うん、そうだね。一応、理論上では何体でも可能ではある」
「ふむ。『理論上では』、か」
「ああ。いくら増やしたところで、それを管理する『脳』は一つだ。こればっかりは仕方がない。何体動かせるかは、個人の才覚に委ねられるだろうね」
「——ほう?」
興味深そうに目を細めるグリム。彼女はメモを取りながら続けた。
「アルフの直感で構わない。奴は最大で、何体まで同時に動かすことが可能だと思う?」
「そうだな……魔法を詠唱することを加味すると、同時には二体。あらかじめ魔法をストックして放つだけだとしても、五体を超えることはないだろうね」
話を聞いてまたもやふらつく私。ニーゼがここぞとばかりに、私をギュッと抱きしめる。
にしても、五体か。無理じゃね?
「そうか。なら、何とかなるかもしれないな」
「うぉい!」
はっ、しまった。思わず声を上げてしまった。私の方を見て首を傾げるグリム。
「どうした、莉奈」
「だって、だって! そんな強いのが五体だよ!? 無理だって!」
「いや、莉奈。考えてみてくれ。キミはあの『渡り火竜』を、同時に何十頭も相手にしたんだぞ?」
「だってあれは、姿見えてたし!」
そりゃそうだ。姿が見えていて、なおかつ知能がそこまで高くない火竜の戦いの時とは条件が全然違う。
なにしろジョヴェディは『姿を溶け込ませる魔法』を使っているのだろうから。
「なるほど。位置がわかれば問題ないと」
「……あー、うん、まー、避けるだけなら……」
まあ、姿さえ見えていれば、攻撃魔法なんて火竜の吐く炎のようなものだ。この前の戦いで、躱すのだけはだいぶ上手くなっている自信はある。
グリムは私の肩に手を置いて、頷いた。
「——安心しろ。空はキミの場所だ。私を信じろ」
†
神殿内では——エルフさん達が酒盛りを始めていた。神殿内に戻った私に、『鳥の集落』のゾルゼさんが手招きをする。
「おう、『白い燕』。先にやらせてもらってるぞ。さあさ、こちらに来て一杯どうかな」
「いやあ、あはは。私達、早速向かおうと思って……」
うん。この雰囲気じゃ、アルフさんに過去の話を聞くどころじゃない。なら、早く街へ行って色々と準備をしたい。あまりのんびりしていると、誠司さん達はともかくレザリアが追っかけてきそうだから。
その私の返事を聞いた皆さまが、残念そうな声を上げる。うー、私も何もなきゃ、みんなと親睦を深めたいんだけどねえ……。
そんな私の気持ちを察したかのように、グリムは一人ひとりに握手をしながら別れの挨拶をして回っていた。私も慌てて皆さんと握手をして回る。
そしてニーゼの番。
「ええ、リナ、もういっちゃうの……?」
ニーゼが腕を絡ませてきた。そうだ、コイツだけはなんとかしておかないと——。
「うん。でもさっきも言った通り、奇襲を仕掛けるからみんなには内緒にしといてね。誠司さんとライラの話は……聞いてるよね?」
「あ、うん。ようやっと再会できたって。レザリアから聞いた」
「そうそう。そんで、あの人達には『サランディアに買い物に行く』って言ってあるから、ニーゼ、よろしく頼むよ?」
そう言って私は、ニーゼの唇に人差し指を立てる。ほんのり顔を赤らめた彼女は、コクリと頷いた。よし。
「それじゃ、私——」
と、私が挨拶をしようとしたときだった。アルフさんが何やら持ってきて、私に手渡す。
「リナ。これを持っていってくれ」
そう言って差し出されたのは、白い布だ。私は受け取りながら、首を傾げた。
「……なんでしょう、これ」
「気休めかも知れないけれど、この布にはある程度の魔法を防ぐ効果がある。初級魔法程度なら受け付けないくらいのね。是非、持っていってくれ」
「えっ! いいんですか!?」
「ああ、もちろん」
私は貰った白い布を広げ、身に纏う。うん、これはマントがわりに使えるかもしれない。季節的に暑いけど。
視線が集まる。私の姿を見たエルフさん達が、感嘆の息をついた。
「……おお、まさしく『白い燕』……!」
「……実在したのね……!」
待て。まさかこれが狙いか!? とも思ったが、この布からは魔力的なものを感じるし、アルフさんも周りの反応を見て苦笑いをしていた。くっ、どうやらわざとでは——ないようだ。
「ありがとうございます! お預かりします!」
「いや、返さなくていい。ただ、お願いだ。話を聞く限り奴は強敵だ。どうか……無事に帰ってきてくれ」
「はい、気をつけます! みんな、行ってきまーす!」
こうして私とグリムは、皆に手を振って神殿をあとにする。
私は隣を駆けているグリムに話しかけた。
「ねえ。とりあえずサランディアに行ってみようと思うんだけど、いいかな?」
「そうだな。私も同じ考えだよ。あそこではやりたいことが、たくさんある」
よし、次の目的地は決まった。私はクロカゲの首を撫でる。
「——クロカゲ、サランディアへGO!」
「——ブル!」
私達は駆ける、森の中を。
仮眠を挟んでも、サランディアには朝方には着くだろう。
私は白いマントを風にはためかせながら、夜の道を駆けるのだった。
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