『白い燕』待望論 04 —魔法の理—







「は? え? いや、あはは……何でですか?」


 突然の質問に、しどろもどろになってしまう私。周りの視線が集まる。えっ、このことは誰にも言ってないはず——。


「いえ、失礼。私は先日までサランディアにいたのですが、その様な噂を小耳に挟みまして」


 いやいや、誰だよそんな噂広めてるの。ノクスさんも言ってたけど、私の想像以上に話は一人歩きしているのかもしれない。


 とりあえずなんと返答しようか悩む私に、グリムが助け舟を出してくれた。


「ほう。ダイズとやら。その話は、どこまで広まっている?」


「そうですね……恐らくは街の噂レベルかと。私の受けた印象ですと、人民の願望が形になっただけでしょうね。なので一応、真偽を尋ねてみた次第ですが……気を悪くされたのなら、申し訳ございません」


 そう言って頭を下げるダイズさん。私は胸を撫で下ろす。噂として広まっているのはいただけないが、この場はなんとかなりそうだ。


「いえ、いいんです、いいんです! いやー、変な噂が広まってるんですねー、参った、参った!」


「……では、リナ殿は動かないと……」


 ダイズさんの言葉を受け、肩を落とす集落の方々。あれ? ダイズさんは続ける。


「……いえ、あのルネディを従える程の力を持つリナ殿なら、今回の件もなんとかしてくれるのではと、私どもは勝手に思っておりましたので……」


「……ああ。この森も、長くはないかも知れないな……」


 あれあれあれ?


「……この地方、全てを塵に還すって言ってたのよね?」


「……うむ、先程のダイズの話だと、そうらしい……」


 あれー? なんか変な流れだぞ。私が冷や汗をかき始め、なんだか心臓がバクバクし始めた、その時。


「みんな!」


 バンッとテーブルを叩いて、ニーゼが立ち上がる。驚いて目を丸くする一同。


 私も驚いて彼女を見ていると、ニーゼは私にコクンと頷いてみせた。まるで私に任せてと言わんばかりに。よし、任せた。私も頷き返す。


 ニーゼはすうっと息を吸い込んだ。


「リナが放っておくわけないじゃん! ジョヴェディなんて小物、あっという間にやっつけちゃうんだから!」


 ガタタッ。私は椅子から落ちそうになる。


「……あの、ニーゼ? あなた私の実力、知ってるよね?」


「うん。あのヴァナルガンド様が、まるで相手になってなかったよね」


 ざわつく一同。風の集落のチゼットさんがニーゼに尋ねる。


「ニーゼ。まるで、実際に見ていたような物言いだが……」


「そうだよ。私も一緒に戦った。その私から言わせてもらえば、二番の『白き光が神狼を斬る』編はぜーんぜん。その百倍は凄かったよ」


 ドヤ顔で言ってのけるニーゼ。おい、誰かこいつを黙らせろ。と、私が膨れっ面をしだした時、今まで静観していたグリムがやっとこさ口を開いてくれた。


「なあ、莉奈。みんなには言ってもいいんじゃないか?」


「ん? 何を?」


 聞き返す私に、グリムは目で合図をする。これは——何か考えがあるようだ。


「いや、みんな。これは独り言だが、実は私達はジョヴェディに奇襲をかけようと思っていてね。私達の動きをあまり知られたくないんだ——」


 グリムの話に固唾を飲み込む一同。私も思わず固唾を飲み込んでしまう。


「——噂に聞こえてくる以上に、奴は強い。『白い燕』の力を持ってしても、きっと一筋縄じゃいかないだろう。だから私達は、妖精王様を頼りにきた、という訳さ」


 その言葉に、エルフさん達は顔を見合わせて立ち上がり——ザザーッと私の前にひれ伏した。


「これは大変な失礼を!『白い燕』様!」


「いやややや、やめて、やめて下さい、立ち上がって下さあい!」


「ですが」


 なるほど。誠司さんの気持ちが少し分かった気がする。この種族は、いちいち大袈裟だ。


「いや、キミ達。先ほど言った通り、これはただの独り言だ。敵に知られてはマズい。普段通りにしてくれたまえ」


「ハッ!」


 グリムの言葉に、ササッと席に座り直す一同。ちくしょう、扱いが上手いな。


「という訳でだ。何か聞こえていたとしても、他言無用でよろしく頼むよ。それでだ、アルフとやら」


「なんだい?」


 今までのやり取りを興味深そうに見守っていたアルフさんが、組んだ指に顎を乗せながら、グリムに聞き返す。


「相手は魔法のスペシャリストらしい。なんでも『魔法のことわりを無視した存在』だとか」


「……ほう?」


 アルフさんの目が、キラリと輝く。


「そこでキミに聞きたい。魔法を『無詠唱』で『連発』することは可能か?」


「いや、不可能だね——」


 考えるまでもないと言わんばかりに、アルフさんは即答する。そして、こう続けた。


「——よかったら、知っている情報を教えてくれないか」



 グリムは話す。先ほどノクスさんから聞いた話を。私も所々頷いて、相槌を打つ。


 と言っても、ノクスさんもアレンさんやグリーシアさんという人から伝え聞いた話なので、どこまで正確な情報なのかはわからないが——。


 そうして、一通りの話を聞き終えたアルフさんは少し考え込み、口を開いた。



「なるほどね。別に『魔法の理』にのっとっても、そう見せかけることは可能だ。膨大な魔力さえあればね」


「えっ、どういうことでしょう?」


 無詠唱を可能? どういうことだろう。私は問いかける。頼むから今回は勿体ぶらないでくれよ。



「うん。いくつか方法はあるが、例えば——そうだな。今から実践してみよう。リナ、グリム、二人とも表で待っていてくれ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る