第8話 三つ巴がややこしい!
微笑みながらも、明らかに不満そうな表情を浮かべる木島さんに、何故か慌てふためいた様子の優。
そして、そんな二人のことなんて我関せず、俺に送るスタンプを楽しそうに選択している大滝さん。
そんな、三者三様な反応を見せる美少女三人を前にした俺はというと、どうしたらいいのか分からず背中から嫌な汗をダラダラと流している。
ひとまず、今の状況を整理する必要があるだろう。
まず初めに、大滝さんは除外していい。
いきなり連絡先を交換したが、彼女はただ俺のやっていたゲームを知りたかっただけなのだ。
つまり、俺がゲームのリンクでも送ってあげれば終了。
だから大滝さんについては、何も問題はない。
そう、問題は残りの二人なのだ。
ということで、先に木島さんから考えてみよう。
木島さんとは、先日から会話をするようになった間柄だ。
そんな木島さんはというと、翔太のことを狙っているらしい。
その可愛らしい見た目とは裏腹に、実は少し腹黒い部分の垣間見える木島さんだが、翔太の前に俺と仲良くなる宣言をしてきたことを思い出す。
――まさか、俺が大滝さんと連絡先を交換したことに、不満を抱いている?
我ながら、なんてナルシストな思考なんだろうとは思う。
しかし、主観的に考えても客観的に考えても、理由はそれぐらいしか可能性が思いつかないのである。
だが俺は、その可能性を真っ先に否定する。
何故なら、俺は翔太へ近付くためのただの踏み台なのだ。
腹黒い木島さんだ、きっとこの反応自体にも何か意図があり、こうして不満を言ってくること自体がただのポーズなのかもしれない。
そう、例えばこうして近付いてくることで、俺ではなく翔太へ近付こうとしているのではないだろうか。
俺の隣には、今も驚きつつもちょっと興味ありそうに聞き耳を立てている翔太がいる。
こうして俺を介してまずは接近することが目的だと考えれば、結構すんなりと納得がいく部分もある。
ということで、本心こそ不明であるが、木島さんの目的は俺を通じて翔太へ近付くことだとしよう。
では次に、優はどうだろう。
不満そうな木島さんに比べ、優は明らかに慌てふためいている。
その理由こそ不明だが、優については木島さん以上にはっきりしていることがある。
それは、優もまた翔太に気があるということだ。
ただ口でそう宣言している木島さんとは違い、優の場合は実際に行動に出てしまっているのだから間違いないだろう。
そのうえで推測できることは、俺が大滝さんと仲良くなることで、間接的に翔太の近くに女子を近付けてしまうことを危惧しているのではないだろうか。
この可能性は、木島さんの理由以上にしっくりくる。
何故なら、優自身がこんなにも慌てていまっているからだ。
優が慌てる理由なんて、これ以外には全く何も思いつかないのだ。
つまりは、二人とも俺がどうこうではなく、俺を挟んで翔太のことを気にしているだけなのだ。
それが分かってしまえば、実はとてつもなくしょうもない話である。
俺は若干の虚しさを抱きつつ、やれやれと二人に返事しようと口を開こうとしたその時だった――、
「ねぇ日比谷くん、スタンプ届いた? ゲーム教えてよっ!」
木島さんと優の存在なんて全く視界に入っていないのか、ワクワクとその整い過ぎた顔をグイっと近付けながら大滝さんが声をかけてくる。
真っ先にこのややこしい状況から除外していた大滝さんによる、まさかの横からの乱入である……。
前々から薄々気付いていたが、大滝さんはあまり空気を読むのが得意ではなさそうだ。
というより、いつだって自分の道を進むタイプなのだろう。
だから、木島さんと優の存在には流石に気付いているようだが、そのうえで全く気にせず声をかけてきているのだ。
「ちょ、ちょっとぉ? 大滝さん?」
そんな大滝さんの態度には、さすがに木島さんも思うところがあるのだろう。
張り付いたような笑みを浮かべつつも、その奥ではブチッとキレているのが分かった。
「ん? 何ですか木島さん? 今わたし、日比谷くんとお話し中なんですけど?」
「いや、それは見れば分かるけどね?」
「じゃあ、こっちの用件が済んでからにしてもらっていい?」
しかし、大滝さんは気付かない。
あくまでマイペースに、今取り込み中だと態度に表す。
そんな大滝さんの空気の読めなさに、更に不機嫌そうな態度が滲み出る木島さん。
「あ、あああ、あのぉっ! か、加賀美くんはこれでいいのっ!?」
そして優は優で、更にアワアワと慌てふためいた様子で、何故か俺ではなく翔太へ声をかけている。
いきなり声をかけられた翔太はというと、「え、俺?」と自分の顔を指差して驚いている。
翔太のリアクションはご尤もで、何故ここで翔太に矛先が向いてしまうのか全くもって意味不明である。
そんなわけで、一度は整理ができたと思ったのだが、何一つ解決していない謎のカオス状態は続くのであった――。
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