第6話 尋問理由がややこしい
「ちょっと待って!!」
授業が終わり、今日も家に帰ろうと駅へ向かって一人歩いていたところ、その声とともに突然制服をぎゅっと掴まれる。
そしてそのまま連行されるように、人気のないところへと引きずり込まれてしまう。
こんなこと、普通だったら大事件だろう。
しかし俺は、その声から犯人がすぐに分かったため、訳も分からずされるがまま連れて行かれるのであった。
「い、いきなり何だよ」
俺は襟元を正しながら、犯人である優に問いかける。
そう、いきなり俺を襲撃してきた相手とは、クラスメイトで幼馴染の優だった。
ここまでタイミングを窺いつつ、俺のあとをついてきたのだろう。
「どうもこうもないよっ!!」
しかし優は、焦っているのか怒っているのか、そう言って俺に謎の説教をしてくるのであった。
そんなことを言われる覚えのない俺は、今何を責められているのか本気で意味が分からないのだけれど。
「亮は、浮気性なの!?」
そして優の口からは、更なる意味不明な言葉が飛び出す。
もう全てが意味不明すぎる優を前に、俺は何を答えればいいのか分からない。
しかし、そんな俺の反応が気に食わなかったのか、優は更に一歩目の前へ近付いてきたかと思うと、そのまま見上げるように俺のことを睨んでくる。
「どうなの!?」
「ど、どうって何の話だよ!?」
「しらばっくれるの!?」
「しらばっくれてないっ!!」
もうずっと、年単位で会話をしていなかった幼馴染。
昨日久々に話せたかと思えば、次の日には謎の尋問を受けている。
しかし、本気で何を言われているのか分からない俺には、もう本当にこの場をどうしたらいいのか分からい。
そんな俺の困惑はようやく優にも伝わったのか、今度は訝しむような表情を浮かべる。
「……本気で、何言ってるの?」
「あ、ああ……」
「……そう、分かった。じゃあこれだけ聞かせて」
そして優は、とても大事な話をするように一呼吸置いてから、再び口を開く。
「木島さんと加賀美くん、亮はどっちが好きなの?」
そう問いかけてくる優の目は、真剣そのものだった。
しかし、何故ここでその二人が挙げられるのかは全くもって意味不明だった。
だがそれでも、優は真剣に聞いてきているのは確かだから、ここは俺も真剣に返答すべき場面だろう――。
――どっちが好きかだって? そんなのは、言うまでもないだろう。
「そりゃ、翔太だよ」
今日絡むようになった木島さんと、俺にとって一番の親友とも言える翔太。
そんな二人のどっちが大切かと問われれば、そんなもの木島さんには悪いけれど翔太に決まっているのだ。
そんなわけで、俺が迷わずに即答したことで、優にもその意志がちゃんと伝わったのだろう。
あっけにとられたような表情を浮かべる優は、その大きな瞳をぱちくりとさせる。
「そ、そうなの……?」
「あ、ああ、そうだよ翔太だよ」
「そ、そっか。なら……いいんだけど……」
「いや、いいってなんだよ? そもそも、なんで優がそんなこと気にするんだ?」
優の態度が明らかに縮こまっていくのを、俺は見逃さなかった。
そもそも今俺は、一体何の話をされているのか問い詰めようとする。
しかし優は、何かは分からないが自分の勘違いであることに気付いたのだろう。
急に顔を赤らめたかと思うと、慌ててこの場から走り去っていってしまう。
そんなわけで、また今日も走り去っていってしまった優。
俺はそんな優の背中を見送りながら、結局最後の最後までずっと意味不明なのであった――。
◇
次の日。
珍しく早起きしてしまった俺は、いつもより早い時間に登校する。
教室にはまだクラスメイトの姿はなく、恐らく入学して初めての一番乗りで登校してしまった。
まぁ早起きしたから早く来ただけであり、特に何か目的があるわけでもない俺は、自分の席でスマホのゲームをして時間を潰すことにした。
「おはよう」
すると五分ほど経っただろうか、俺の次に教室へやってきたクラスメイトの声が聞こえてくる。
しかもその声は、男子のものではなく女子のものだった。
そして今教室には俺しかいない。
つまり先程の挨拶は、確実に俺へ向けられたものだろう。
となれば、無視をするわけにもいかないため、俺は顔を上げて挨拶してくれた相手の姿を視認して驚く。
何故なら、そこにいたのはこのクラスの有名人だったからだ。
――
黒のロングヘア―がトレードマークの、長身でモデルのようなスレンダーなスタイル。
それでいて、出るところはしっかり出ており、良い意味でとにかく凄いルックスをしている。
そんな大滝さんは、木島さんと並んでこのクラスの美少女として知られている。
だからそんな、もう一人の美少女と二人きりの状況を前に、俺は少し戸惑ってしまう。
しかし、ここで挨拶を返さないのは感じが悪いだろうから、俺も当たり障りのない挨拶を返す。
「……お、おはよう」
しかし、今日初めて発した声は僅かに掠れてしまい、緊張した言い方も相まって明らかに変な挨拶となってしまった。
そんな俺からの挨拶を受けた大滝さんは、自分の席に鞄を置きながらおかしそうにコロコロと笑いだす。
そんな美少女の笑みはそれだけで絵になるのだが、生憎今笑われているのは俺……。
恥ずかしくなった俺は、誤魔化すようにスマホゲームの世界へ戻ることにした。
「ねぇ、何気に話すのは初めてだよね?」
しかし、大滝さんは逃してはくれない。
そう言って席を立つと、そのまま俺の席の方へ近付いてくるのであった――。
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