少年冒険家と奇妙な村⑪
村長はアンナに尋ねられどこか遠くを眺めながら何かを考えている風だった。 しばらく沈黙を守り、そしてポツリと語る。
「・・・それは寂しかったからだ」
「寂しかった?」
「約25年前。 採掘業が盛んだったこの村を炭鉱からの有毒ガスが襲ったんだ。 そのガスを吸ったこの村の人々は次々に亡くなってしまった」
「・・・ッ!」
ギャリーは生まれていないため知らない話だった。 村長の話ではニュースにもなったらしいが、小さな村でもあるしすぐに炭鉱は封鎖されたためほとんど噂が後に残ることはなかったらしい。
とはいえ、少なくない人数がこの村に骨を埋めた。 村の外の大量の墓地はそういうことだったのだ。
「そこで生き残ったのは若い私だけ。 当時幼かったベッキーも残っていたようだが」
「・・・」
ベッキーは視線をそらした。
「後に他の街の女性と出会い私は結ばれた。 それが今の妻じゃ」
村長の隣にいる妻は小さく頭を下げている。
「その時に悲しんでいる私を見て妻が提案してくれたんだ。 以前のような活気ある村に戻そう、と。 だからここにいる人は皆約25年前に生きていた人たちだ」
「生きていた人たち? どういうことですか?」
「私が知っている者を残っていた写真等を参考にそっくりに作り上げた。 幸いガス事件だったからか家屋などに損壊がなかったのだ」
「みんな思い入れのある人たちだったということですね・・・」
「そうだ。 まぁこれだけたくさんの人を再現するのは骨が折れた。 作り上げるのに10年。 最初は途方もないと思えたが、完成した今の村に私は満足している」
「それはアンナさんが生まれてからもですか?」
ギャリーは村長の言葉を聞き一つ疑問を覚えていた。
「どういう意味だ?」
「アンナさんが機械と仲よくなって元気に育っていく。 それはいいと思います。 だけど将来のことは考えなかったんですか?」
「・・・」
「アンナさんが機械とコミュニケーションを取ればそこには少なくない感情が生まれるでしょう。 もしかしたら恋愛へと発展していくかもしれない。 それは悲しくなりませんか?
相手は恋心を持たない機械なのですよ?」
「それは・・・」
「この村の人はみんな機械。 それを公に言っていないのがいけないんです。 だからアンナさんがここで育ったとしても村長さんは絶対に後ろめたい気持ちになる日が来る」
「言えなかったんだ」
「・・・何故ですか? アンナさんにもずっと言わないつもりでいたんですか?」
「あぁ。 この村は機械で作ったと言えば周りは私を軽蔑するだろう。 変わり者だと。 アンナの信頼も失いたくなかった」
「そもそも人がいないのに一体誰が軽蔑するのでしょう? それに俺はこの村が好きですよ」
「・・・本当か?」
村で過ごした時間は僅かではあるがギャリーは奇妙な風習を気に入っていた。 更に村人が機械だったということが拍車をかける。
今まで訪れたどんな場所よりも変わった場所はギャリーにとってかけがえのない体験をもたらせてくれる場所となった。
「はい。 機械だらけの村、とてもいいじゃないですか」
「そう言ってくれてありがとう」
ギャリーは変わったものが好きだから冒険が好きなのだ。 もちろん全ての風習に合点がいったわけではないが。
「あともう一つ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「どうして村を戻そうという奥様の提案で機械の人間を作ることにしたんですか? この村を一から発展させるとか他にも方法があると思うのに」
「そうだな」
「やっぱり25年前の人々を忘れられなかったからですか?」
「・・・いや、単純に怖かったんだ。 いくら炭鉱が封鎖されたといってもまた過去のような悲劇が起きるとも限らない。
ならそんなガスが出たとしても活動に支障のない機械を作る方が適していると思ったんだ」
確かに言われてみればその通りだと思った。 過去に村人が全滅する事件が起きた場所で誰が好き好んで生活するというのか。
「村人が機械なら事故が起きたとしても私一人の犠牲で済むとな。 まぁ結局事故なんてあれ以来起きておらず、調査してガスはもうないということも分かっているんだがね」
そう言って寂しく笑う村長。
「そんなに危険ならこの村を離れてもよかったんじゃ」
「長年生まれ育った場所を捨てるということがどんな意味を持つのか君にも分かる時が来るかもしれない。 私には仲間たちが眠っているこの村を捨てることなんて到底できなかったんだ」
「・・・そうですか」
それを聞いて尚更勿体ないと思ってしまった。
「でも本当にそれでいいんですか?」
「それでいい、とは・・・?」
「このままではいずれ村長さんと共にこの村は忘れ去られてしまうでしょう。 アンナさんも言っていましたが機械はメンテナンスをしていないと壊れてしまいます」
「・・・」
―――他の人はどう受け取るのかは分からないけど、こんなにも変わった特徴のある村なんて初めてだ。
―――公にすれば特色として絶対に記事に取り上げられるはず。
―――村人が機械ということが気になるけど、俺だって言われるまでは全く分からなかった。
「この村はとても魅力的な村でいいと思いますよ」
「そなたは変わっておるな」
「いえ、きっと俺以外にも好感を持ってくれる人は大勢います。 安全性は詳しく調べる必要があるかもしれませんが、勇気を出して公にしたらもっと多くの人に見てもらえると思いますよ」
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