第14話 アイテムボックスの可能性

「あとは、晩ご飯の前に倒したファングの解体依頼だけしておくか」


 俺たちは新しいパーティの申請を済ませて、ギルドを後にしていた。


 魔物などを倒した際、それを冒険者ギルドの方で解体をしてくれて素材の買い取りをしてくれる。ちょうどギルドの後ろにある倉庫でその解体をしてくれるので、俺はアイテムボックスに入れてあるファングの解体を依頼するために、その倉庫に来ていた。


「おう、アイクじゃないか。解体希望か?」


「あっ、はい。バングさん、ファング二体の解体をお願いしたいんですけど」


 俺が倉庫に足を踏み入れると、そこにガタイの良い短髪の三十代くらいの男がいた。ギースのパーティにいた頃からここに長く通っていただけあって、この男も知り合いだったりする。


「ファング二体ね、了解。そこにシート引いてあるから、そこに置いておいてくれ」


「分かりました。並べておきますね」


 俺はそう言うと、シートが引かれている場所にアイテムボックスから出した二体を並べた。


「アイクはアイテムボックスがあるからな、本当に羨ましいぜ。ん? なんだ、血抜きしてないのか。あれ? それにしてはえらく鮮度がいいな」


「はい、アイテムボックスに時間停止機能が付いたんですよ。だから、血抜きしなくてもいいかなって思ったんですけど、やっぱり血抜きはしてきた方がーー」


「時間停止!? それは、本当か!」


「え、はい」


 俺がポロリとそんなことを言うと、バングは俺の両肩をがっしりと掴んできた。何か変なことを言ってしまったのか、目を大きく見開いて驚いている。


「それは、どんな魔物相手にも適応されるのか!?」


「えっと、多分そうですけど。ば、バングさん? そんなに驚くことですか?」


「当たり前だろ! いいか、肉ってのはちゃんと処理をしても鮮度は落ちていくんだ。それを倒した状態で維持できるって言うのは、いくらでも鮮度の高い魔物を卸せるってことだぞ?」


 バングにやけに熱心に説明をされたが、確かにそのとおりだった。冒険者が旅に出て魔物を倒して持ち帰ってきても、大概が肉などを腐らせてしまう。もちろん、ちゃんと倒した魔物を下処理して持ち帰ってくる冒険者もいるが圧倒的に少ないだろう。


 だから、基本的に食べることのできる魔物肉はそのギルドから近くにいる魔物に限られる。


 どれだけ珍しくて、美味しいとされている魔物でも持ち帰るまでに腐ってしまう可能性があるのだ。塩漬けにすることもできるが、そうすると本来の味を味わうことはできない。


 それが俺のアイテムボックスなら、可能ということになる。


「き、気づきませんでした。というか、ギルドの職員もそんなこと気づいてませんでしたよ。よく気づきましたね」


「ん? ああ。俺は前に料理人してたからな。そこら辺のセンサーはあるんだよ。そうか……時間停止、か。なぁ、アイク、お前が良ければ鮮度の高い魔物肉をギルドとは別で売ってくれないか? 俺には料理人時代のルートがある。高い値で買い取ってくれると思うんだが」


 バングは少し考えた後、少し声のボリュームを落してそんなことを口にした。バングが料理人をしていたというのは初めて聞いたが、そのルートを紹介してもらえるというのはかなりありがたい。


「え、マジですか?」


「大マジだ」


 バングは何かの金の匂いを掴んだような笑みを浮かべていた。どうやら、かなり自信があると思われる。


 俺からしたら今後も魔物を討伐したときにそれを仕入れるだけで、通常よりも多くのお金が貰えるというのだから、断る理由がなかった。


 何よりも、これからは助手もできたしお金が掛かりそうだったしな。


「確かに魅力的ではありますけど、俺いつまでこの王都にいるのか分からないんですよ」


「ここにいる間だけでもいい。それに、どこにいるのか連絡をくれれば、ある程度は俺も動けるぞ」


「それでしたら……無理のない範囲とかなら大丈夫です。あくまで、旅のついでとしてってなりますけど」


「十分だ。俺が個人的に依頼を出せば魔物肉の横流しってことにもならないだろうし、問題ないだろう。こっちの準備が整ったら連絡するから、よろしく頼むぞ」


 そう言うと、バングはこちらに握手をするように手を差し出してきた。


 俺がその手を掴んで握手をすると、バングは少しだけくだけたような笑みを浮かべた。何か以前よりも心の距離が近づいたような気がした。


「それで、さっきから隣にいるその子はなんだ?」


「あっ、この子はリリっていいます。リリは俺のーー」


「助手です!」


 リリはいつ紹介してもらえるのかとうずうずしていたようで、胸を張ってそう言い放った。


「……なんの?」


 当然、そんな反応にもなるよな。


 本気で訳が分からないような表情をするバングを見て、俺はそんなことを思うのだった。

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