第12話 クエスト報告を助手と共に

「着きましたね! 王都、ミノラル!」


「いや、そんな初上陸みたいな感じで言われても」


 俺たちはクエストの薬草収集を無事に終えて、ミノラルに戻って来てきていた。リリはただの街並みに少し感動しているようで、その石畳を嬉しそうに踏んで小さなステップなんかを踏んでいた。


 何をそんなに喜んでいるのかと思ったが、リリとの先程までの会話を思い出すと、その理由も分からないわけではなかったりする。


 初めて手にした体に喜んでいるのだろう。だから、石畳を踏む感覚さえも楽しめるのだと思う。そんな表情を見ると、どうやら先程までの話も本当らしいと思うのだった。


 俺の助手として俺の元に現れてくれたのか。


 そう考えると感慨深さと、この子を守っていかなければという責任感のような物が生まれてきた。


「とりあえず……喜びすぎて、色々と見えないようにな」


「見えないように? あっ……」


 リリは俺の視線の先がスカートから伸びている脚に向けられたことに気づいて、頬を赤くしてスカートの裾を押さえ込んだ。


 多分、さっき体を手に入れたばかりだから気づかなかったのだろう。短いスカートで動き回ると、その中の物が見えてしまうということに。


 初めて体を手に入れたときの服装がスカートというのは、色々と危険な気がするのは俺だけだろうか。


ふとした瞬間に見えてしまわないか心配である。


「えっと、確かに私は助手ですけど、そういう手伝いは、その……まだ分からないというか、」


 俺が心配をするように脚を眺めている視線をどんなふうに捉えたのか、リリは熱を持ったように頬を赤くしていた。羞恥の感情に当てられたような微かに潤んだような瞳を向けられて、俺は思わずドキリとしてしまいそうになっていた。


 きゅっとスカートの裾を握るようにしながらそんな言葉を言われて、俺たちに気づいたような周囲の視線が集まってきた。


 セクハラをしている師匠。それを非難する周囲の視線。


「ち、違うからな! そんなこと要求しないから! ぜ、絶対に!」


「ぜ、絶対にですか。……そ、そうですか」


 周囲からの誤解を解くように大きな声で否定をすると、なぜかリリは少しばかりむくれたような表情をしていた。


 体を手にして間もないからか分からないが、感情が素直に表情に出てしまうらしい。いや、そうだとしてもこの状況でその表情はおかしいだろ。


 なぜか周囲から向けられている視線は減ることがなく、ただその視線の色が変わっただけだった。


 まるで、俺が何かをやらかしたとでも言いたげな視線だ。


 いよいよ訳が分からない。


「とりあえず、クエストの報告に行くぞ。そのあとに、ご飯でも食べるか」


「ご飯ですか……うん、楽しみです。ほら、早くギルドにいきましょ!」


 ご飯と聞いて機嫌を直したようなリリを連れて、俺はクエストの報告をするためにギルドへと向かった。



「すみません、クエストの達成報告に来たんですけど」


「あっ、アイクさん。お疲れさまです。ギルドカードを拝見させていただきますね」


「はい、お願いします」


 俺はギルドカードを提示して、請け負ったクエストを確認してもらっていた。


 俺がギルドのカウンターに行くと、そこにはミリアがいた。どうも、この前の一見以来、前よりもミリアとの仲が深まったような気がしていた。


 俺が今までこなしてきたクエストが、サポーター職として登録されていたことを憐れんでいてくれているのかもしれない。


 弱みを見せることで仲良くなることもあるとはよく言ったものだ。


「薬草の採取ですね。それでは、薬草をこちらにお願いします」


「はい。リリ、リリの分も出してもらっていい?」


「分かりました。私の分は、これだけです」


 リリはそう言うと、アイテムボックスから自分が採取した分の薬草を取り出した。当たり前のようにアイテムボックスを使う少女を見て、ミリアは驚いたように目をぱちくりとさせていた。


「あ、アイテムボックス持ちですか……えっと、アイクさん。この方は?」


「えーと……クエストの途中で偶然遭遇して、ちょっと手伝ってもらった女の子でーー」


「アイクさんの助手です」


 俺がどう説明をしようかと考えていると、俺の隣にいたリリが胸を張りながらそんな言葉を口にした。


「助手、ですか?」


 俺に困ったような視線で説明を要求してくるミリアに耐えかねて、俺はため息を一つ吐いて言葉を続けた。


「助手のリリです。冒険者登録もしたいみたいなんで、そっちの手続きもお願いしてもいいですか?」


 俺に助手と言われて、リリは嬉しそうに口元を緩めていた。


【ジョブ 助手】のステータスを知らないミリアは、こんな少女が冒険者なんかできるのだろうかと心配をする目を向けていた。

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