黒色に白色の幾何学模様

「ああ、クソっ どうなっているんだ……」


 このところ不眠不休で働いている気がする。

 あの女神の願いだから不味まずいのではないか、とは思っていたが案の定だった。


 数百年ぶりだからと油断していたこともあるだろうが、まさかこんな事になっているとは聞いていない。


 いや、私が事前調査をおこたったからだろうか。


「こいつは違う、こいつもだ。まだ四半世紀しはんせいきも生きていないじゃないか。死にすぎだろうが」


 この世界は異常だ。

 生命が死にすぎている。主に人族がだ。

 元から外見の多様性には事欠かない世界で、争いはそれなりにあったが、それにしてもだ。


 あの女神、まさか創世神に隠れて何かしているんじゃああるまいな。と邪推してしまう程度には死者が多い。

 

 どの世界でも存在することわりだが、均衡きんこうというものがある。要はバランスだ。

 正のエネルギーと負のエネルギーがあるとして、その均衡バランスが崩れると些細ささいゆがみから始まり、いずれは終末が起きる。


 ただ、その世界毎にそれぞれ正のエネルギーと負のエネルギーの内訳は違う。様々な力が混合して世界の均衡バランスは成り立っているのだ。


 そしてどの世界にもあり、特に大きなエネルギーがある。それが生誕と死亡だ。


 当然、生誕が正であり、死亡が負に当たる。

 そして双方共に大きいがために、生誕から死亡までの期間が短ければ短いほど、大きなエネルギーの揺れとなり、それだけ均衡バランスが不安定になるのだ。


 そのために私のように世界の管理に長けた神が、他の世界の神に手を貸すこともあるほどだ。

 いわゆる死神というものではない。あれは死を恐れる人間が作り出した偶像であり、虚構だ。


 黒いローブと骸骨の仮面は私の趣味だが、それとこれとは関係ないのだ。


「これとこれとこれとこれと……ああ、これと」


 片っ端から運命と照らし合わせて魂を肉体に戻していく。間に合わなかったものは転生だ。無事な体を探して、死すべきではなかったとして入れていく。


 そんなことを続けて百余年が過ぎた頃、それが唐突に止まった。同時に世界は凍結処理となったとのむねの連絡が届いた。


「………」


 このときほど虚無感にさいなまれた事はない。

 創世神に消滅を願おうかと迷ったほどだった。

 タダ働きは対価を払えるほどの豊かさを持たない世界の神に手を貸すこともあるため、無いではないが、全くの無意味だったことはこれまでに無かった。

 そんな私の想いが通じたのか、創世神から別の世界の案内が届いた。


「……忘れよ、とお命じか」


 そんな風に曲解して、ため息をついた。



 その世界は他の世界から不遇な魂を招き、その悔恨を力に転生の後に力を与え、世の巨悪に立ち向かわんとする勇者に仕立て上げる。ということをしていた。


 どこかの女神はこれを見守らず放置し、いくつもの遊者ユウシャを暴走させる結果となり、国vs国vs国vs……という大戦争を巻き起こしたのだという。

 道理であんなことになっていたわけだ。

 どこの神とは言わんが。


 幸い、その神は上手く勇者を制御し、世界の均衡を保っていた。

 成程ナルホド、落とし穴はあろうが、それは人を使う以上、どこかに必ずあるものだ。


 従来の巫女制に比べると手間は増えるが、より直接的に世界に手を加えられる方法と言えるだろう。一考の価値はある。


 だが、一方でこの手の方法が広まると私の責務が山積するため、黙っていよう。

 そう決めた。

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