海底に潜む耳と猛禽
一九四二年一月二日、横須賀では厳戒体制が敷かれていた。
銚子と大島から未知の音紋を三つ探知したとの報告が入ったのである。
それを受けた横須賀鎮守府司令長官の平田中将は、
「聴音機の性能が上がってなかったらと思うとぞっとするね」
と述べた。
どういう事かと言うと、三四年に九三式水中聴音機を装備した捕鯨船が南氷洋に進出した際通常より遠くまで音が伝わるサウンドチャンネルを確認。
小川兄弟が提供した鯨の生態を取り上げたドキュメンタリー番組を視聴した有識者の間では、知識としては存在を識っていたが裏が取れたのである。
九三式を元に開発中の水中聴音器は当初は使用深度を水深二五〇mとしていたが、探知距離が短い等不具合も多かったので、より遠く深い場所へ設置する為に深さ三五〇mまで潜航可能な潜水艇を開発中の西村深海研究所の協力の元改修。
保守整備の関係上潜水艇と同じ三五〇mが限界だったが、九七年初頭には完了した。
まず対潜訓練と廃物処理を兼ね、海防艦が各深度に銃撃で誘爆する事が判明した爆雷を投下。
伝播状況を確認した後目標を潜水艦に変更。
探知実験が開始された時は十数海里、方位誤差五°とまずまずだったが、開戦直前には確実探知距離が二百海里を超え方位誤差は十分の一に減少。
ほぼ実用に達した。
試験は横須賀で行われたが、選ばれたのは管区に即座に対処可能な部隊が存在していた為だった。
「館山に連絡。 九〇一航空隊を出撃させろ。
敵の二番艦、三番艦は
平田の要請を受け、一時間と経たずに館山から一機、続いて四機の九六式陸攻が発進。
銚子からの情報で既に発進準備中だったのである。
背面が膨らんでいる機体を先行させ、側面にCマークを付けた後続の四機は編隊を組むと低空飛行しながら基地から指示のあった海域に向かった。
「電探に感、正面七二〇(〇〇)」
離陸から二時間程経った頃、Bスコープを睨んでいた電信員の声が響く。
「良し、バンクして後続に知らせよう」
指揮官機がバンクすると、レーダー探知を避ける為後方下部を飛んでいた四機は四百m間隔で横一列に並び指揮官機を追い越した。
陸攻が搭載している空六号電探は小型艦を七二㎞先で、磁気探知機は水中排水量一四四五tの呂号も単機なら左右二一〇m、直上二七〇m以内で探知出来たのである。
指揮官機が探知した位置付近の空域に留まっていると敵の光点が消え、数分と経たぬ内に友軍機から一定間隔の雑音と共に『撃沈確実』と報告が入った。
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