第二章 夫、コロナ感染。
第1話 日常が崩れんの早すぎ。
「ねぇママ~、パパはいつ帰ってくるの?」
「土曜日の夜中だよ。夜中の2時とかだから、君たちが寝ているあいだだね」
「早くパパに会いたい~。さみしい~」
と、ぐずぐずする娘。
パパに聞かせてやりたいぜ。娘に会えなくてさみしいと言われるとかパパ冥利に尽きるって奴じゃね?
一方の息子は別にパパがいてもいなくても変わらない感じだったけど「日曜日にパパいる? ご飯食べに行ける?」とそっちのほうが気になっている様子。
我が家はわたしがご飯作るの面倒くさい民であるがゆえに、日曜のお昼はたいてい外食なのだ。
「たぶんね~。とはいえパパが帰ってくるのは遅い時間だし、日曜日はお昼くらいまで寝ていたいんじゃないかな? 起こさないであげようね」
「はーい」
ということで平和な土曜日を過ごしていたけれども。
夕飯も終わりお風呂も終わり、洗い物を終えたちょうど20時半過ぎよ。
「パパからLIMEきたよ~」
「はいはい」
わたしのスマホから動画を見ていた息子がLIME通知音を聞いて、スマホを持ってきた。
時間的にそろそろ帰りの飛行機に乗った感じかなぁ、と思って見てみたら。
『今から飛行機乗るね。ごめん、喉の痛みと38.1の熱があるから、荷物を家に置いたら漫喫あたりで一泊するつもり』
という内容が入っているじゃあないですか。
(やっぱりコロナに罹ってきやがった、あの野郎おおおおお!)
……まぁね、医療崩壊寸前と騒がれている沖縄に行って無事でいられるとは思っていなかったよ。
あーあ、これまで濃厚接触者に二、三回くらいなりかけつつも生き延びてきた夫だから、今回も大丈夫かなぁなんて甘い見解でいたけど、やっぱり駄目だったか。
逆に言うとあの夫でも回避できなかったくらいに、コロナが蔓延しているということだな、沖縄の観光名所あたりって。
(いや、ワンチャン、娘の喉風邪が移って今頃症状が出てきた可能性も……?)
と考えるが、はじまりはそれでも、普通に風邪で免疫力が弱くなっているところにコロナにトドメを刺されたと考えたほうが自然だわな。妙な期待を持つのはやめよう。
「とにかく検査薬とか、あれこれ買いに行かないと」
チッ、常備しておけば良かったぜ検査薬。ドラッグストアに並びはじめた頃に買おうか悩んだけど、薬剤師さんがいないと買えないし、ちょうど自分が行くときって薬剤師さんがいないことがほとんどというタイミングの悪さだったんだよね。
「お店、まだやってるかな。だいたいのところって9時で閉まっちゃうよね……?」
早く動画見たい~と急かす息子にスマホを渡し、ノートPCを開いて近くのドラッグストアを検索。ほとんど9時で閉まる中、一番近い、一番通っているドラッグストアは22時までやっていた!
「奇跡! 本当にありがとう! というかここのウメキヨ、開店も9時だからほかのウメキヨ店舗より一時間早いんだよな。ほかの店舗より二時間も長く営業してくれているなんて神なんだが?」
とにかく急がないと。もう21時近い。
風呂上がりでまだ生乾きの髪のまま、Tシャツ・リコラから昼の格好に着替える。
「子供たちよ、よく聞くがよい。パパが今こっちに帰ってくるんだけど、なんと38度の熱があります」
「えっ! コロナ?」
勘のいい娘がすぐに聞いてくる。
「検査していないからわからないけど、可能性は高いです」
「えぇえええ~! パパの馬鹿! うちに帰ってこないでほしい!」
……昼間「会いたいよ~さみしいよ~」と言っていた可愛い娘はどこへ行ったのやら。目をつり上げて「帰ってくんな!」と言ってくるとか、己の感情に忠実でいいなオイ。
「そういうわけにもいかないから。ママはこれからウメキヨに行って消毒薬とかいろいろ買ってきます。だから留守番していてね」
「わかったー」
「え~……早く帰ってきてね」
淡泊な息子と不安そうな娘に見送られ、佐倉はバッグをひっつかんで急いでウメキヨへ向かう。
家族がコロナに罹った場合、いったいなにを用意すればいいんだ? 消毒薬? 解熱剤? ええと、ええと……と考えつつ、土曜の夜に車をぶっ飛ばすぜ。
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