第八話 町田改革(3)国内情勢への対応

 昭和デモクラシーに対応する形で様々な改革が行われたが、改革に対する反発も当然大きかった。


 労働基本法によって労働者の権利を大きく認めなければいけなくなった資本家・農地調整法によって土地を強制買収された地主などは当然のこと、資本家や地主と結びつき不当に利益を上げていた政治家も反発し出していた。

 

 また、以前まで強力に弾圧されてきた社会主義者たちも昭和デモクラシーで獲得した権利だけでは不十分だと訴え、民衆に融和的な軟弱な町田内閣社会主義者の偏見を動揺させようと過激な行動へと動き始めていた。


 こうした国内情勢の悪化を予期していた町田内閣は、さらなる改革によってこの動きを阻止しようと幾つかの法律を成立させた。


 1935年7月14日に、が制定された。この法律は、現代でいう年金制度に近い代物だが本来の年金制度とは少し違う。


 まず、制定された目的だが大きく分けて二つ存在する。


 一つ目は、福祉政策の充実によって国民を社会主義などの危険思想から遠ざけ、労働へと専念させるという目的だ。


 労働基準法によって労働者の権利も認められているし、真面目に働きに一定額を納付しておけば退職後も安心して暮らせるとなれば、国民の多くが社会主義運動などに興味を示さないと考えたのである。


 二つ目は、日本国民の共助意識を高めるという目的だ。


 国民救済法によって確立されたは、主に以下のようになっている。


 ・二十歳以上の国民は、給料からの定額事前納付か預金からの自由送金のいずれかを指定し、国民救済機構にを納める。

 ・納められた国民救済金は、特別な理由がなければ原則として引き出すことはできず、災害・経済不況に伴い損失が発生した際や規定年齢到達当時は40歳に伴い機構から給付が行われる。

 ・資産・定収入が一定額を超えている人物は、基準額以上の金額を納めなければならず、納付した金額の四割がに送られる。

 ・国民共助基金に対する送金は、納付義務の無い個人や一般企業、日本政府なども行うことが可能であり、送金を行った個人・企業はその額に応じて政府から表彰を受ける。

 ・国民共助基金からの給付は、災害や経済不況の際に行われ、給付を希望する国民は損失が発生したことを証明しなければならない。


 元々、仲間意識が強く団結力が高いことで知られている日本国民は、自分の納付で多くの人々を救うことができる上に、事実上天皇陛下から表彰されるということに歓喜した。


 日本民族というのは不思議なもので、理想のために私財を使うということを多くの人が平然としてしまうのである。大義や理想の為に、天皇陛下の為にという自己犠牲精神の高さが、功を奏したということなのだろう。


 また、1935年7月31日にはが制定された。


 改革派に反対する勢力や社会主義者による革命を防ぐために制定され、内務省から分離された警察組織はとして独立し大規模な強化・改革が行われることとなった。


 保安省は、警視庁を筆頭に全国の警察組織を指揮下に入れた上で、帝国海軍の協力の元で新たに海上保安局後の海上保安庁を設立した。


 海上保安局は、帝国海軍の代わりに日本周辺海域における法秩序の維持や一般船舶の護衛等を行うために設立され、帝国海軍から艦船・兵装・人員など様々な面で協力を受けることで、早期の戦力化を実現することができた。


 また、血盟団事件前蔵相暗殺海軍甲事件現海相暗殺未遂事件神兵隊事件右翼のクーデター未遂事件などの国家を標的とした多数の事件が発生したことを受けて設立された特別警備隊は、警察予備隊後の保安機動隊として再編・拡大されることとなった。


 警察予備隊は、通常警察戦力で対応不可能な事態における任務遂行を任務としている為、通常の警察よりも強力な武装を許されており、陸海軍や憲兵隊などと連携して様々な事件に対応していくこととなる。


 他にも、報道規制や文化的活動に関する規制が一部緩和されたり、学校教育において社会主義の危険性について学ぶ機会を設けるなど、国内情勢の悪化に備え様々な政策が行われた。


 順調に改革を進めてきた町田内閣だったが、急速な国政の変化は国内で動乱を生んでしまった。天皇機関説問題と二・二四事件の発生である。

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