第一章 満州事変~町田忠治内閣総辞職
第一話 満州事変
1931年9月18日午後10時20分、中華民国奉天市郊外の柳条湖には深夜にもかかわらず複数の中国人が蠢いていた。
『急げ!雇い主の指定時間に間に合わなかったら、報酬が貰えなくなっちまうぞ!』
『おい、爆弾は設置できたから早く離れろ!こんなとこで死ぬ必要があるか!』
中国人らは怒号を発しながらお互いを急かし、南満州鉄道の線路に何かを仕掛けその場からすぐに離れていった。
中国人らがいなくなってから数分後、中国人が何かを仕掛けた線路上を南満州鉄道の急行列車が通過した。次の瞬間、線路に仕掛けられていた爆弾が作動し大爆発を起こした。所謂、柳条湖事件である。
急行列車は爆発を受け大破、線路付近に横転した。乗客の内、19人が死亡、39人が重軽傷を負う事態に、列車の運転士は南満州鉄道上層部と関東軍に対し救援を要請する連絡を入れた。
連絡を受けた関東軍司令官代行の
本庄は当初、柳条湖付近にいる中国軍の武装解除程度の処置で十分だと考えていたが、柳条湖での爆破被害に関する詳細な情報が次々と届き、石原ら参謀が主張した満州主要都市の解放に同意し、関東軍に攻撃命令を下した。
関東軍は、満州解放に第2師団・第1臨時工兵師団を動員し、翌日までに北本営・奉天・長春・安東・鳳凰城・営口などの鉄道沿線地を次々と解放していった。
関東軍の支配下に置かれた都市では、石原の命令を受けた工兵師団が破壊された建物や橋などを現地住民と協力して修復しており、住民からの支持を集めだしていた。
一方、関東軍による暴挙だと思い込んでいる中国軍は、混乱の中独善的な抵抗戦を展開、住民を盾とした戦闘や民間家屋への立てこもりなどを平然と行い、住民からの支持を失いつつあった。
柳条湖事件から2日後の9月20日午後2時ごろ、朝鮮軍司令官の
「ん…おい、向こうから誰か来てないか?」
「何?…本当だ!ありえないとは思うが、中国軍の可能性もある。伝令は今すぐ司令部へ連絡しろ!我々は、万が一に備え臨戦態勢に移行する!」
混成第39旅団の指揮下にいた中隊は、満州側から朝鮮に向かってくる集団を見つけ臨戦体制に移行した。名目上、彼らは中国領に侵入できないため、旅団は一時緊張に包まれたが、集団が国境間近にまで接近するとその姿に驚愕した。
20人以上の日本人集団は、体に無数の傷を負い身ぐるみもはがされた女性・子供・老人の集団だった。彼らになぜそのような姿でここまでやってきたかを尋ねた中隊の指揮官は、集団の代表らしき人物の話に驚愕した。
「中国軍の兵隊に襲われて逃げてきただと!」
「はい…。中国軍は、私たちの村に突然襲ってきて、村の男性たちは私たちを逃がすために必死に戦って、全員殺されて…。私たちは何とか逃げ切れましたが、村に残っていた人は、恐らく…」
「ちゅ、中国軍どもが!あいつらは本当に人間なのか!伝令、今何が起こっているのか一言一句違わず司令部に伝えろ!こっちには大勢に負傷者がいるんだ、早く医療科をよこすようにも伝えてくれ!事態は一刻を争う!」
混成第39旅団旅団長の
朝鮮軍司令部は、旅団からの詳細な報告を受け、打倒中国軍という気持ちで結束しつつあったが、統帥権を持つ昭和天皇の裁可が無ければ
その様子を見ていた林は、自身の陸軍軍人としての人生をドブに捨てる覚悟を決め、司令部員に命令を下した。
「…混成第39旅団と第19師団に対し越境を命じろ。部隊の最高指揮官は、第19師団長とする」
「司令!そんなことをしたら、我々は大権干犯を行った逆賊になってしまいます!」
「そんなことは考えなくていい。私がすべての責任を取る。参謀本部へこう伝えろ。『朝鮮軍ハ帝国臣民救援ノ為越境ヲ開始セリ。朝鮮軍越境ハ完全ナル私ノ独断デアル。臣民ヲ護ル為ナラバ軍人トシテ全テヲ投ゲダス覚悟アリ』とな」
「し、司令!…分かりました。第19師団に連絡を急げ!」
そして、20日午後5時15分に混成第39旅団は越境を開始、3時間後には第19師団も中国へとなだれ込んでいった。朝鮮軍からの増援を獲得した関東軍の勢いはさらに加速し、中国東北部は翌年1月のハルビン占領によって完全に制圧された。
1932年2月1日、満州の殆どを制圧したと判断した関東軍は、満州各地に成立していた軍閥政権に工作を行い、満を持して満州王国の建国を宣言した。国家元首には、清王朝最後の皇帝である
満州王国は、立憲君主国家として成立し、初代国務総理の
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