第十五話 新メンバー
あとから考えれば僕は少しはっちゃけ過ぎたのかもしれない。
それから数日は神楽道さんから避けられている。
野枝と坂本の件は学校側が転校したというなんともベタな誤魔化し、みんな多少のざわめき程度ですぐに話題にならなくなった。
そんな次のデートはどうするのか、悩む僕を神楽道さんが放課後、人気のない学校の廊下に呼び出した。
「神楽道さん……この前はごめんなさい」
恐らく怒っているのだろう。
だからすぐに謝ることにした。
これで避けたりするのをやめてくれたら良いのだけど。
神楽道さんは長い髪を弄りながら、そっぽを向く。その頬は少し赤らんでいるように見えた。
「別に……いい。あと、決めた。……入るよ、そのヘンテコな組織とやらに」
僕の目を一瞬だけ見てすぐに逸らしてしまったけど、どうやら許されたらしい。それに、エトワールに入ってくれるという最上位の返事すらもらってしまった。
僕は自分が笑顔になっていくのを感じた。
「ありがとう神楽道さん! ……これで、これからも一緒に居られるよ」
僕は本心からそう思った。
同じような価値観を持つからと言って、同じ考えを持つわけじゃない。ここで彼女との関係が終わっていた可能性すらあったのだ。
(少し前の僕ならきっとそれでも構わなかったかも)
でも、美澄さんに出逢ってからは人との繋がりはとても大切なものなんだと分かるようになった。
今は美澄さんも神楽道さんもアスタさん、ついでに拓斗との関係も失いたくない。もちろん、学校の友人たちも大切だ。師匠はどうだろうか。あの人だけは僕の目標だから別枠かも。
僕の言葉に顔をさらに赤くして俯く。
「ばかっ。そんなことを簡単にゆーなっ」
「えっ……ご、ごめん!」
よく分からない時は謝れ、それが父さんの教えです。
「ほ、ほら、いくぞっ。そのアジトとやらに……青音くん」
「えっ? 今なんて」
「か、彼氏なんだからいつまでも苗字で呼び合うのもへんでしょ!? た、他意は無いから!」
そう言って先にスタスタ歩き出す彼女を追いかける。
「分かったよ……神楽道さん」
「あ、あれ? おかしくない?」
彼女は不服そうに頬を膨らませるけど、ごめんね。わざとなんだ。美澄さんとの約束が先だからね。彼女を名前で呼ぶのを。
だから、少し待って欲しい。
すぐにそう呼べるようにするから。
☆☆☆
僕が先行してエトワールのアジトまで先導する。これをあいち〜とも呼ぶ。いや嘘だけど。
僕の横ではなく後ろに着いてくる神楽道さん。
たまに振り返ると視線があったりしてドキッとする。彼女はすぐに逸らすけど上目遣いでチラチラこちらの様子を伺う。なんだろう。何か言いたいこともあるのかな?
「へ、へんな場所に連れていかない、よね?」
顔を真っ赤にして尋ねてくる様子から、どうやら僕がいかがわしい場所に連れて行っているのでは?と勘違いしているようだ。
「それは着いてからのお楽しみ」
以前彼女に言われたセリフを言ってみた。
すると彼女は唇をとがらせボソリと零す。
「ばか……ふふ」
意地悪してしまった。
でも、そんなにお互いが今のやり取りを嫌っていないように感じた。
「さあ、着いたよ」
エトワールのアジトを彼女は見上げポカンとする。
「えっ……本当にエッチなことするの?」
「違うよ! 確かに古臭いビルに見えるけど! 別に中に入ったら既に撮影の準備が整っていて。さあ、脱いで? みたいなやり取りをしたりなんかしないよ!!」
「詳しすぎて余計に怪しいわ!!」
「墓穴掘ったぁー!!?」
「はぁ……まあ、青音くんにそんな度胸あるわけないか……行こ」
「う、うん……誤解が解けてなによりだけど、少し複雑かも」
彼女に促され、ポケットから鍵を取り出しドアを開ける。
彼女を中に入れてから、鍵を閉める。
「なんかその行動が獲物を逃がさないための細工に見えるんですけど……」
「さ、最近は物騒だから念の為だよ!」
早く美澄さんに合わせないと、僕の誤解が凄いことになる!
前もって連絡しているから、今は三階の作戦会議室に居るはず。
エレベーターで三階に上がり、部屋のドアを開ける。
「いらっしゃい、青音さん……それと神楽道ここのさん」
出迎えてくれたのはデスクに座り優雅に紅茶を飲んでいた美澄さんと、部屋の端っこの方で拓斗の話を永遠に聞いてたのか魂が抜けそうになっているアスタさんと、未だに話しかけ続ける拓斗の三名だ。だから、どうして拓斗が当たり前のように居るのかな〜?
「やあ、青音君」
「お前は即刻、話をやめて差し上げろ」
軽快な挨拶をしてくる拓斗をキッパリ切り捨てる。
惚けるように固まる神楽道さんに話しかける。
「彼女は美澄さん。このエトワールの創設者でこのビルの持ち主だよ。あっちに居るメイドさんがアスタさんで本名は五峰院みこねさん、このビルの管理を任されている人。あっちの大学生は無関係の他人だから無視していいよ」
「酷くない?」
拓斗の抗議など無視して構わない。
僕の説明に神楽道さんは美澄さんとアスタさんに視線を交互に向け、頬を膨らませる。
「へぇ〜こんな可愛い女の子たちと知り合いなんだー知らなかったな〜」
僕にジトっとした目を向けてくる。
なんだから冷や汗が止まらないんですけど?
そのタイミングで美澄さんは神楽道さんに近づきて、手を差し出す。
「ようこそエトワールへ。紹介された美澄桃菜です。これからエトワールの一員としてよろしくお願いするわ。ここのさん」
相変わらず無表情だけど、少し圧を感じた。
「あ、神楽道さんは」
「よろしくね……桃菜ちゃん?」
僕が誤魔化そうとする前に、神楽道さんから美澄さんの手を握り返す。少し震えているけど、常人には気づかれない程度だ。
「シリウスさん……少し震えてませんか?」
いつの間にか傍にやって来ていたアスタさんがボソリと囁いてくる。耳が幸せでございます。
「少し事情があるんだ」
「そうですか……分かりました」
それ以上のことを聞かずにすぐに引くアスタさん。世渡り上手だ。
「聞いているわ。青音さんの“仮“の彼女さんなのよね? 彼は少し勘違いしやすいから気をつけて接して上げてちょうだい」
「そうだね〜
「そう……なら、彼に十分に気をつけるように忠告しておくわ」
「おやおや〜? もしかして自信ないのかなぁ? 簡単に取られそうなぐらいの関係なのかなぁ?」
なんかパチパチ火花が散ってませんか?
それに対して一瞬美澄さんは固まるがすぐに胸を張って髪を後ろに払うと言い放つ。
「ふっ……もう、私は彼のご両親とも親しくしているし、何度もお泊まりに行っているわ」
「は、はぁ!? お、お泊まり? ちょっ!? ふ、不潔! 変態! えっち! 青音くんのばかっ! 浮気者っ!」
「ご、誤解だよ! お泊まりは確かに何度かあったけどなにもやましい事はしてないよ!」
神楽道さんは真っ赤になって非難してくるけど、事実過ぎて弁明の余地がほとんどない。
二人が仲良くお喋り? しているのを見て、ふと思った。
(構成メンバーがほぼ女性だ)
美澄さんと神楽道さん、そしてアスタさん。男性は僕だけ。
「ふむ……」
視界の端に期待した眼差しで自分を指さす拓斗。
僕は彼に言わなければならないそうだ。
「拓斗。お前船降りろ」
「乗ってすらいないよ!?」
普段の仕返しをしてみた。
「嘘だよ。拓斗、僕と契約してエトワールの一等星になってよ」
「ああ、喜んで」
拓斗と握手を交わす。
賑やかな毎日になるぞ。
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