第五話 報告
僕はエトワールのアジトで不思議な光景を見た。
何故かもう用済みの拓斗の野郎が三階作戦会議室のパソコンを全部バラしていやがるのだ。
「なにやってんの、貴様?」
つい声音に怒気をはらんでしまうのもやむなしだろう。
「ん? ああ、青音君。なに、美澄嬢はイケナイな。付いてくる純正グリスなんか使って」
「何を言っているの、貴様?」
「純正品は熱伝導率が高くないんだからさ。ちゃんと個別で高性能なやつを買っておかないと。安心してよ。今、全部いいやつに塗り替えているからさ」
「話を聞けよ、貴様」
僕だって歳上の拓斗の野郎には、さん付けで敬語で接したいのに、本人が嫌がるからさ〜。本当にしょうがなくこき下ろしてあげてるのだ。
「そうだ! この前のお礼だからさ、君好みのパソコンを組んであげるよ。何がいいとかある?」
「ホント!? じゃあね! じゃあね! ……なんかすげぇーやつ!」
マジかよ。良い奴じゃん。拓斗さん。しばらくついて行くわ。
「そうだなぁ。ヤンテルが安定だけどGODも最近凄い進化を果たしているんだよね〜安定のインテルかロマンのGODかでその人のタイプが決まるって言っても過言じゃないよね」
「よく分からん。ド安定でよろしく」
「ヤンテルだね? 意外だな。君ならロマンを求めると思っていたよ」
「不安定な機械どかゴミじゃん。安定的に使えないものはガラクタだよ」
過去のトラウマがあるからね。
いきなり起動出来なくなるとか、勘弁してくれよ。
「辛辣だねぇ。なら、最新世代のハイエンドにするね。なら次はメモリは……ヤンテルなら相性問題なんかないに等しいし、3200ぐらいの32GB四枚刺しで信頼性のあるメーカーでいいよね」
「なんでもいいよ。安定してるなら」
「よし! なら次にハードディスクを決めようか。と言ってもM.2SSDをメインにしてサブはSATASSDの定番コンボにしようか。容量はどれぐらいが良い?」
「なんかすげーやつ」
「了解。早くて沢山入れるタイプだね。メインは7000毎秒で2TBのやつにしておくよ。SATA4TBのタイプをサブに用意しよう。他にもいろいろあるけど、最後にグラフィックボードだけ決めようか」
ようやく最後かよ。まったくついていけないぞ。
「一番ステキなやつ」
「うぅ〜ん。なら、VIPの四千番台の最上位モデルが良いかな? 国内保証もあるわけだからね。ああ、あとオーバークロックはやるかい? 性能上がるけど、不安定になるけど」
「やるわけないだろ馬鹿者」
「だよね〜。よし。ならこれで決めちゃうね」
「よ、ようやく終わった……」
聞いているだけでどっと疲れるんだけども。
相変わらず話が長くてくどいんだよね。
でも、僕の専用機かぁ……楽しみだよ。
「いつぐらいに出来る?」
「揃ってから、組み立てて、OSインストールして、セキュリティソフトを登録して……そうだな、二週間ぐらいは欲しいかな。最速を、求めるなら一週間ぐらいで」
「早くない!? 自分で組み立てるんでしょう? 凄いね! そんなに慌てなくていいよ! 楽しみに待ってるから、ありがとうね!」
なんだよ〜拓斗さんいいやつじゃ〜ん♪
「気にしないでよ。俺の名前に傷がつく可能性から考慮したら、お礼にすらならないよ」
「十分だよ。むしろ貰いすぎるぐらい」
人助けはするものだなぁ。意図したものじゃないけどさ。
コンコン。
丁寧なノックのあとに、ドアが開かれる。
「青音さん。来てたのね、嬉しいわ」
「美澄さんも遅れてきたんだね」
「ええ……最近何かと、呼び出されてしまって」
ドキッ。
話す予定で来たけど、そんなタイムリーな。
僕は恐る恐る尋ねる。
「ど、どういう要件で?」
「お付き合いしてくださいという告白をよく受けるわ」
「や、やっぱり……」
「全て断っているわ。私には青音さんとするべきことがあるもの」
「美澄さん……」
凄まじい罪悪感が押し寄せる。
「ごめん、僕彼女出来た」
スっと僕は答えた。
「……………………え」
あ、顔に出てないけど、凄いショックを受けているのだけは分かるぞ!
今にも崩れ落ちそうになっている気がする。
「ってのは嘘で! 実は彼女 (仮)なんだよ!!」
「……どういうことか説明してくれる?」
「イ、イエッサー!!」
ヘルヘイムにいる女王様なみの冷気を放たれました。
その後死ぬ気で説明した。
その間に、アスタさんはひょっこり顔を出して、すぐに引っ込めた。どうやら、関わる気はないようだ。
「そういうことね。青音さん、ややこしい事言わないで」
「本当にごめんなさい」
なんかスルッと言っちゃった。
美澄さんが告白されたと聞いて、意外と動揺していたようだ。
「それにこちらにも非があるわ。青音さんがハンドボールで大きな功績を立てたことを知っていて黙っていたわ。ごめんなさい」
「いや、いいよ。僕自身が気にすらしていないことだったし。本来なら自分で気づくべきことだよ」
その件はやはり、彼女なりの気遣いだった。
だから、今日来た本題を言う。
彼女を裏切りたくないから。
「そ、その……いやなら、断ってくるよ。恋人になる件」
僕は美澄さんには嫌われたくないと、本気で思っている。
例え、今後の学校生活が最低のものになろうと。
その覚悟でここに赴いたのだ。
美澄さんは僕の覚悟を受け取ったのか、手を差し伸べてくれる。
僕は彼女の手を握りしめる。
「……違うわ。スマホを貸して欲しいのよ」
「あ、ごめん!」
手を離し、スマホのロックを解除して渡す。
「少しカレンダーに書かせてもらうわね」
「どうぞどうぞ」
勘違いして顔が赤くなっているのを感じた。
「拓斗テメェ何見てやがるんだ、あぁ?」
「いやぁ……いいもの見れたよ」
「ぐ、ぐぬぬ……」
キャラに合わないことしたのに、何も動じた様子を見せずにニヤニヤする拓斗に何も言い返せない。
その間も、素早くスマホを操作した美澄さんは、自分のスマホも取り出し、操作する。
左右別に操作しているんだけど。超人過ぎない? マルチタスクを極めた人じゃん。
「これで……よし。ありがとう返すわ」
返されたスマホのカレンダーには、等間隔に“桃菜“と書かれていた。
「これ、なに?」
「可能なら私と一緒に居る日」
「なにそれ、ずっと一緒に居る……あ、違う。可能ならなんだ?」
つい世界の終わりまで一緒に居ようとか言うところだった。
「ええ。その彼女さん的には、一度だけのデートだとアリバイとして使用出来る頻度は高くないわ。同じ服装を着ていて別の日とは言いきれないもの。だから、定期的にデートをして情報を更新したいはずよ」
「最近の女子はプライベートなんか無いレベルで情報を公開するからね」
訳知り顔で拓斗が補足してくれたおかげで、納得した。
「だから、その彼女さんに時間を割く分、あなたの無理のない範囲で私にも割いて欲しいのよ」
「そんなこと言わなくても、暇な時なら何時でも誘ってよ。付き合うからさ」
「ありがとう。でも、そういう欲張りな女だとは思われたくないの。だから、我慢をするわ」
「美澄嬢にとっては“我慢“の部類なんだね」
むむ。そう言われると、四六時中僕が一緒に居るのは、鬱陶しいかも。
あと、拓斗はちょくちょく話に割り込んでくるな。
「エトワールの活動に関しては、しばらく何も無いから好きな時にここに来ていいけど、その場合は一言連絡してくれると嬉しいわ」
「分かったよ」
「あなたに言っていないわよ、拓斗さん」
「つれないなぁ」
「分かった。できる限り来るし、必ず連絡する」
「あなたはバイトもしているのだから、無理しないでね?」
「無理なんかしてないよ。美澄さんと一緒に居て無理なんかしたことない」
「私もよ。あなたと一緒に居ると楽しいもの」
どうやら、同じ気持ちのようだ。
僕と美澄さんは深い絆で結ばれている。
「二人とも無自覚に言ってるのかなぁ〜?」
拓斗が何かを言っているが、気にしない。
「要件は済んだわね?」
そう言って、早々に鞄を持ち上げて、肩にかける。
「おや、どこかに出かける用事が?」
拓斗が僕の聞きたかったことを代わりに聞いてくれた。
「ええ。今日は青音さんの家に泊まっていくわ」
「聞いてないんだけど?」
「お母様に許可を貰ったわ」
「いつの間にメル友に」
かざしたスマホには、母さんとのメッセージのやり取りが。
『お母様。本日はお泊まりに行っても宜しいでしょうか?』
『許可する』
許可されてるぅ〜!
「青音君のお家かぁ……俺も行っていい?」
「わけないだろ」
「聞いてみるわ」
『お母様。私と青音さんの共通の知り合いもお連れして宜しいでしょうか?』
『許可する』
「僕のお母さんBOTだっけ?」
少し目眩がするけど、いつもの母さんなんだよなぁ。
口下手で無口だけど、凄く優しい母さんなんだよね。
「嫌なら、俺は辞退するよ」
大人な表情でそんな事言うなよ。
僕が子供みたいじゃないか。
「はぁ……よし! お前ら今日は寝れないと思えよ! 朝までゲーム三昧だ!」
最近、複数人用のパーティゲームを買い漁っているんだよね。うちの父さん。
父さんに連絡しないと。
『父よ( ¯• ω •¯ ) 今日は美澄さんともう一人友達が泊まりに来る。五人でゲームをやるぞ٩(>ω<*)و』
『まことか息子よ( ̄・ω・ ̄) 腕が鳴るな(*´∀`*)』
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