第31話 真・配下集合!①
スキンヘッドの男が、倉庫の鉄扉をもったいぶってひらく。
「クソガキ~、しつけの時間だぞ~」
男は金属バットをチラつかせながら入ってきたが、ピタリと固まる。
蜥蜴男――リザードマンの剥製が立っていたからだ。
引き締まった筋肉質の身体、硬い鱗がびっしりと生えている。二足歩行のトカゲ戦士はまるで門番のように立っていた。
「あんっ……? はっ、トカゲを置いて驚かしたってか?
プッ……ダハハハハハハハハッ!
ガキは浅はかだ――ぼへっ⁉⁉⁉⁉⁉」
リザードマンの太い尻尾がムチのようにしなる。
スキルヘッドの男は、ぐるぐると縦に回転しながら数メートルふっとばされていき、そして床で悶絶した。
「んだぁ⁉⁉⁉」「おい⁉」「なにがあった⁉⁉⁉」
男たちのがなり声が廃工場でひびく。
工場内は、壊れたベルトコンベアやら計器盤などの機材が放置されっぱなしになっていて、鉄の配管が天井や床に張りめぐらされていた。
テーブルでたむろっていた十数名の男が席から立ちあがる。
「な、なんで……剥製のモンスターが動いてんだ……?」
倉庫からはリザードマン、ブルーウルフ、
大昔の映画みたいなストップモーションの動きで、カクカクと歩いてくる。
30体ばかりの蘇った死者に、男たちは青ざめた。
だが荒事には慣れっこなのか、迎撃の意思を示す。
「お、おい、武器を構えろ……っ」
「剥製の中身は骨も肉もろくにねーハリボテだ……ビビることはねーって……」
強気でいたのもそこまでだった。
彼らの瞳が恐怖に染まる。
剥製のモンスターたちが奇妙に鳴きはじめたからだ。
「ルルルルル……」
「ルルルルル……」
「ルルルルル……」
この世あらざるものだと証明する不気味な声。
彼らは恐怖で声をあげずにいたのだが、赤髪の男が手にしていた鉄パイプを落としてしまう。
カラーン、コローン、カラカラカラカラ……。
それが合図となった。
「わ、わりぃ――」
「「「「「ルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル……‼‼‼」」」」」
剥製のモンスターたちがいっせいに襲いかかる。
ぎゃあう、うげええ、ぎゃあと、屈強な男たちが情けなく鳴いた。
赤髪の男にブルーウルフが二匹飛びかかる。
二匹の狼はズボンに噛みつき、押し倒して、小部屋にひきずりこんでいく。
「⁉ やだやだやだぁ‼‼ た、たすけて‼ だれかたすけてぇ……!」
赤髪の男は必死で地面に爪を立てていたが、ずるずると餌のようにひきずられていった。
「やだあああああああああーーー……‼‼‼」
子供のように泣きじゃくった声に、廃工場のいたるところから屈強な男が集まってくる。
剥製のモンスターたちを前にして、大混乱に陥った。
「な、なんで剥製が動いてんだよ⁉⁉⁉」
「しらねーよ⁉ だ、誰か武器を……! 急いでぶっ壊せ!」
「どいてろ! オレがこんな奴らぶっ壊してやるっ!」
ガタイのよい大男が、消防斧を手に威勢よくやってくる。
そんな大男を前に、プラントマンが立ちふさがった。
「んだぁ⁉ 植物のでくの坊がつっ立ってんじゃねえぞ……!」
「ルルル……」
「に、に、人間さまを舐めんじゃねえええええ……!」
大男はプラントマンを叩き斬ろうと消防斧をふりかぶった。
しかしプラントマンからツタが伸び、大男をがんじがらめにして空中に持ちあげる。
「うぼえぇ⁉ や、やめ……ふるな……! シェイクはやめっ……!」
大男は空中で上下左右にガックンガクンとゆさぶられた。
「うびゃゃああああああああああああ!」
ボクとミコトちゃんは、彼らの絶叫を倉庫の近くで聞いていた。
よし……!
聖ヴァレンシア学園戦のときは【666の軍勢】を魔力SSS状態で、全力全開で唱えたからな……。
昔、
……前よりも、術のコントロールが楽になった気もするけれど。
これなら大惨事にはならないだろう。
だからといって、無傷ですませるほどボクは優しくないぞ……‼
「ち、近づくんじゃねーぞ! こ、殺すぞゴラァッ!」
眉無しの金髪男が、ロックゴーレムに追いつめられていた。
あの声……舐められるから、ボクの歯や骨を折れとか命令していた奴か?
金髪男は、岩だらけのゴーレムに舐められまいとナイフを突き出している。
「こ、こいや! 見せかけだけの剥製なんぞ切り裂いて――」
ロックゴーレムはナイフをはたき落とす。
「ルルル……」
「あ、あ、あ…………」
ロックゴーレムは金髪男の脇を抱えて、たかいたかーいした。
「ご、ごめんなしゃい……! ゆ、ゆるして……! あやまりますから……!」
ブオンッと、ロックゴーレムは金髪の男を投げ捨てる。
金髪男は飛行機のように十数メートルも滑空し、そして窓をパリーンと割って、お外にふっ飛んで行った。
………………し、死んでないよね???
だ、大丈夫……致命傷を与えないように命令しているから大丈夫なはず……。
って、こんな惨状をミコトちゃんに見せつけるわけにはいかないぞ⁉
が、ミコトちゃんはクスクスと微笑んでいた。
「へーぇ、ふーん。すっごく良い眺めー……」
うん……慣れているみたいだ。
それが大丈夫なことかわからないが、大丈夫だな……うん……!
ひとまず、残りの連中を片付けようとしたのだが。
「お、お前ら! こ、この工場はもう捨てるぞ! じ、次元の裂け目に逃げろ!」
「他の奴らは⁉⁉⁉」
「自分の命が大事だろ! 逃走用ダンジョンで撒くぞ……! い、急げっ‼」
まだ動ける連中が、屋上に向かって逃げていく。
くっ、逃走用のダンジョンを準備していたのか!
あの言い方なら別の出入り口に繋がっているな。
剥製のモンスターたちも追いかけて行ったが、ダンジョン内でならボクの援護がいるかも。
……このまま奴らには、剥製のモンスターは超自然的な力で蘇ったと思わせたいところだけど。
どうにか隙をつけないかな……。
「みそらおにーさん、はい」
ミコトちゃんが笑顔で手を差しだしてきた。
「? どうしたの?」
「ミコトの身体にふれたままなら、他の人には見えない・さわれない・突入できない、次元の裂け目に入ることができるよー?
ミコト、こーみえてトラベラーだもの」
任せてよと言いたげなミコトちゃんに、ボクはためらう。
「でも……」
「ミコトもおにーさんの力になりたいの。
それとも守ってくれないのー?」
ミコトちゃんは余裕を取りもどしたようで、挑発ぎみに微笑んできた。
ボクは苦笑する。
「もちろん、絶対に守ってあげるよ」
ボクはミコトちゃんの手を握りかえした。
小さくて温かい手だった。
「あっ、そうだ。ちゅー太郎。ミコトちゃんと情報共有できないかな?」
「ちゅー」
そうお願いすると、ちゅー太郎がミコトちゃんの足元に触れる。
「? どうするつもりなの、おにーさん?」
「試したいことがあってね。ん。ありがとう、ちゅー太郎。
……できた。ミコトちゃんが見えている次元の裂け目って、配電盤の近くにあるのだよね?」
壊れた配電盤の近くに、次元の裂け目が見えていた。
オレンジ色でギザギザしていて、人間サイズぐらいの裂け目だ。
「…………おにーさんにも見えるの?」
「ボクがっていうか、ミコトちゃんの視界情報だけどね。
ちょっとだけ同じ世界を共有させてもらったよ」
「ミコトだけの世界が……おにーさんと……」
ミコトちゃんは手をぎゅっと強く握ってきた。
「ごめん、イヤだったかな?」
「イヤなわけがない……イヤなわけがないよ……。
行こう、みそらおにーさん!
ミコト、どんなところでも絶対についていくから……!」
ミコトちゃんは嬉しそうに微笑むと、力強くひっぱってくる。
ボクたちは同時に、次元の裂け目に突入した。
柔らかい膜のような感触がして、まばゆい光がボクたちを包む。
そして、すぐに光はおさまる。
真夜中の雑居ビルのフロアだった。
同じようなビルが他にもあるようで、窓の外には何十個ものビルが並んでいる。
なるほど、このダンジョンなら逃げやすいな。
これほどの大規模ダンジョンを長期保存していたみたいだけど……。
どれだけ余罪があるのかとボクは眉をひそめる。
すると、フロアの突き当りから叫び声が聞こえてきた。
「ぎゃへえええええええええええええええええええええええええええええ⁉⁉⁉」
「うわあああああああああああああああああああああああ⁉⁉⁉」
ひときわ大きな叫び声に、ボクもミコトちゃんもビックリする。
ガリガリ、ギーーーッと鋭利な刃物が床をひっかくような音がフロア奥から聞こえてきた。
ボクたちが戦々恐々していると、影の中から彼女がぬっとあらわれる。
黒いケープを羽織り、大鎌を肩にかまえた死神は静かな表情でいた。
「アルマ……⁉」
「遅れて申し訳ありませんでした」
下手なモンスターよりずっとずっと怖い
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