デートのお誘い

 次の日は銀の雫での朝食から1日が始まる。他の店の朝ご飯も試した見たけどここのパンが1番美味しいのでなんだかんだ通ってしまう。朝ごはんは銀の雫の焼きたてのパンとコーヒーに限る、と言うのが俺の結論だ。


 今までは適当に屋台で買って食べることが多かった。LVが上がるに連れて特別な依頼が増えていき、冒険者ギルドで朝の依頼を眺める機会が減っていたことから、朝は拠点でゆっくり起きてゆっくり冒険者ギルドに向かうことが多かったからだ。正直、今までの朝ごはんの過ごし方には後悔している。


「おはようございます、カミトさん」

 ミオに話しかけられる。銀の雫にはミオがいるというのも癒されるポイントだな。殺伐とした空気や仕事の空気もなく、軽い話を適度な時間することが出来るので大変有り難い存在だ。


「おはよう。そういえば、昨日お姉さんと一緒に依頼を受けたよ。レナさん」

「お姉ちゃんですか!? 昔からやんちゃな姉だったので…… ご迷惑をお掛けしませんでしたか?」

「いや、さすが騎士だったよ。おかげでいつもより強い魔物を倒すことができたからありがたかったよ」

「そうなんですか、よかったです。でもなんで一緒に依頼を受けたんですか……?」

「たまたま冒険者ギルドで会ってね。休暇中で時間があるから一緒に依頼を受けたいと言われたんだよ」

「そうなんですね。お姉ちゃんは昔から武闘派で、男の子にも負けないくらい喧嘩が強かったんですよね。とりあえずお役に立てたようで何よりです」


「あ、そうだ。カミトさん、明日昼から夜にかけて暇だったりしませんか?」

「明日は休みの予定だけど……どうしたの?」

「お姉ちゃんがお世話になったお礼と言ってたはなんですけど…… 店長から演劇のチケットを2枚もらったんですよね。一緒に行きませんか?」

 演劇。この世界では格の高い娯楽扱いになっており、サクラの演劇は質が高いらしい。昔の英雄に関する物語と恋愛系の物語が人気で、チケットも争奪戦になると聞いた。付き合いで行ったことはあるが演出に拘っていて見ているだけで面白いし、行くのもありだな。


「いいよ、行こうか。ちなみにどんな演劇なの?」

「ありがとうございます! それが恋愛をテーマにした演劇なんです。流石に女友達と行くのも微妙で、どうしたものかと思っていたんですよ」

「恋愛系か。 面白そうだね。楽しみにしてるよ」

「はい、よろしくお願いします」


 その後のクエストについては…… 特に語ることはないな。明日の演劇に行けるように、心なしかいつもより安全運転でこなしたくらいだ。流石に怪我したのでキャンセル、は格好が悪いからな。


 その日の夜。

「なあアリエッサ。明日演劇に行くんだが、普通はどんな格好で行くのかな?付き合いでしか行ったことないからよく分からないんだよな」

「そうですね…… よっぽど高級な演劇ではない限り、普通の服でいいと思いますよ。あまりラフすぎる格好は悪目立ちするかもしれませんが」

「そうなんだ、助かるよ」

「夢の羽のメンバーとお出かけですか?」

「ん? いや、違うよ。まあ、ちょっと色々あってね」

「そうですか…… 珍しいですね」

「なんか誘われたからね。遊びで行くのは初めてだから楽しみだよ」


 なぜかエリスの視線を感じる。

「…… どうしたエリス?」

「…… 何もないよ」

 呆れたようなアンとエッジ。何かチームメンバーが冷たいぞ。もっと働けということか……

 確かに最近こっちでは働いていないからな……

「…… 今週中に1回何か依頼をこなしておこうか。そろそろ冒険者ギルドから怒られそうだし」

「そうですね、実はギルド長から心配されています。急にカミトが姿を見せなくなったがどうしたのか、と」

「だよなあ。はあ、仕方ない」

 低レベル冒険者の場合、1ヶ月以上依頼を受けないと報酬が下がるというペナルティがある。これは、戦闘の勘が鈍ることで依頼を失敗するリスクを下げるための処置らしい。ただ俺が依頼を受けないことでペナルティを受けるとは思えない。俺に臍を曲げられて困るのは冒険者ギルドの方だからな。とはいえ、LV10が急に活動を停止したら心配されるだろう。しばらく休暇を満喫していた、ということにして何か程よい依頼を受けて、冒険者ギルドの機嫌を取っておこう。


「後、明後日の夜、領主から面会の要請が来ています。マスター、私、エリスでこちらに来て欲しいとのことです。とりあえず同意しましたが問題ないですよね?」

 アリエッサから確認が来る。面倒だが断る話でもないだろう。

「ああ、わかったよ、皆で行こう」

 一つ仕事が増えてしまった。

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