第34話
樹里杏に売春を強要しない代わりに、俺は一条に呼び出されたらいつでも飛んでいくしかなかった。させられたこと事態は簡単だった。二村たちを見張ることだとか、ビデオをや写真を撮ることだった。
一条は二村から金を毟っているわけではなかったから、一条の目的は金じゃあなかった。
「お金? ああ、祖父が相続税対策で僕に遺産を残してくれたから。お金には別に困ってないし、興味もないよ」
「その金の管理は親がしてるんじゃないのか?」
「母さんは僕のお金には無頓着だから、僕が自由に使えるんだ」
金が目的じゃないなら身体目当てってことなのか? と思うだろ? でも、一条は二村に何かを強要している感じはしなかった。二村は一方的に一条に好意を抱いていて、そのせいで言いなりになっているような気がしたんだ。
俺にようやく一条の目的が少しだけ分かったのは、三学期のはじめ、桜山高校の数学教師、大神を二村を使って、美人局をした時だった。
一条の目的は、金でも女でもない。むしろ、それをつかって、相手の弱みを突いたり、握ったりすることだった。
二村が襲われているのを録画するように言われた時、一条は二村にも恋愛感情や、愛着はないんだと思った。
いつものように、撮影用のスマートフォンを渡された。ビデオカメラではなく、スマートフォンで撮影するのは、持ち歩いていても違和感がないからだと一条に言われていた。何もかも用意周到だった。ただ、それまで撮影していたのは、二村が誰と一緒にいたかだけだったけど、今回は違っていたから、俺は撮影することに躊躇していた。俺は一条に聞いたんだ。
「一条と二村さんって、どういう関係なんだ? こんなことさせて平気なのか?」
一条は俺を哀れむかのように目を細めた。
「僕と三国くんの関係とそんなに変わらないよ?」
「でも、みんなお前と二村さんは付き合ってるって思ってるだろ?」
「そうだね。そう見えるかもしれない。でもそうじゃないと思うから三国くんは質問したんだろ? 撮影するの気が進まないなら、僕がやるよ。三国くんは見張ってて」
あいつが言ったとおりに大神はやってきて、二村の身体をまさぐっていた。反吐がでそうだった。
一条は写真を撮って逃げた。大神はそれを追いかけた。俺は取り残された二村の様子をうかがった。二村は過呼吸を起こしていた。樹里杏がしょっちゅう過呼吸を起こしていたからどうすればいいのかは分かっていた。
死にそうにつらそうな二村を見て。それでも一条のいいなりになる理由を二村に聞いてみたけどよく分からなかった。
「私は一条くんのモルモットなの」
涙目で赤くなった目尻を細めて薄く笑った二村の心中は全然理解できなかった。二村は壊れていると思った。一条が壊したのだろう。
二村も一条には何か目的があると考えているみたいだったけど、分からないままズブズブと深みにはまっているみたいだった。
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